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論文

 先月13日に中国の吉林省吉林市の中国石油天然ガス(CNPC)傘下の石油化学工場で爆発事故が発生し、松花江にニトロベンゼンが100トン程度流れ込んだという事件になりました。これによって松花江の有毒物質の濃度が1リッターあたり0・35ミリグラムで許容濃度の19倍以上になり、下流の黒竜江省ハルビン市やロシアのハバロフスク市では松花江からの取水を中止して水道供給が停止になっていますし、ニトロベンゼンは発がん性物質なので、河川に近付いて蒸気を吸わないようにという通達が出されるなど、大騒動になっています。
 現在、すでに松花江は氷結しはじめていますので、川の流れが遅くて1日100キロメートル程で流れており、今日あたりに汚染された水がアムール川との合流地点にあるハバロフスク市に到着するというところです。

 これは他人事ではなく、北海道のオホーツクの海岸に流れ着く流氷はアムール川の水が影響しているし、このような有害物資は食物連鎖によって魚などに濃縮されますから、日本海で獲れる魚にも影響するという危険があります。
 実際、ハバロフスク市ではアムール川での魚釣りを数年間禁止する検討をしていますが、今後5〜7年はアムール川の魚は食べることが出来ないと予測しています。

 今日はこの事件を題材にしながら、世界の水汚染の現状や問題を紹介してみたいと思います。
 このような事故は今回が最初というわけではなく、1986年11月にはスイスのバーゼル郊外の化学工場で火災が発生し、ライン川が河口まで汚染され、50万匹以上の魚が死に、下流のドイツ、フランス、オランダで取水が中止になるという大事件になりました。
 また1999年3月にはユーゴ紛争のためドナウ川にあった石油精製施設をNATO空軍が爆撃し、黒海まで石油で汚染されています。

 しかし、最近の中国ではこのような事故が頻発しています。11月中旬には遼寧省黒山県の製紙工場の汚水貯蔵池が決壊して汚水が河川に流入して多数の魚が死んでいますし、13日の吉林市の事故以後も、16日には陜西省子長県の油田の原油貯蔵施設から油が流出して河川を汚染し、24日には重慶市塾江県の化学工場が爆発し、ベンゼンなどの有毒物資が河川に流入し、同じ24日には湖南省冷水江市の化学工場の廃液貯水池が決壊して大量の窒素化合物が河川に流入するなどというように、次々と河川の汚染が発生しているのです。
 吉林市はかつて日本で公害問題が発生したときと同じような状況だと思います。松花江上流は化学工場が集中して「化工城」と呼ばれていたほどで、経済の中心でした。吉林市が観光都市を目指すために環境改善を推進しようとしたところ、石油化学工場の幹部が「観光による市の収入増加くらいはいつでも援助できる」と言ったという証言もあり、まさに経済優先を象徴しています。
 もう一つの問題は情報隠蔽だと思います。中国は2003年1月にSARS(新型肺炎)が発生したときにも情報を海外に伝えなかったことがあります。今回も13日に事故が発生し、14日には河川汚染の事実が分かっていたのですが、市民に水道停止伝えたのが21日と1週間も後ですし、その原因が事故のためだと発表したのは22日、ロシアに伝えたのも22日というのが実態でした。
 日本も公害のときには似たような事態もありましたから、胸を張れるわけではありませんが、現在の社会情勢からすると問題だと思います。

 これは中国国内、もしくは中国とロシアの2国間の問題だとしても、水の汚染は世界規模の大問題になっています。
 地球に存在している水のほとんどは海水で、生物が利用できる淡水は全体の0・0076%でしかなく、そのわずかな水が循環して命の水になっています。循環している限り総量は減らないのですが、汚染されて使えなくなる水が増えています。
 例えば、中国では工場排水の3分の1が未処理で川に放流され、生活汚水の90%はそのまま川に流されており、その結果、5万キロメートルある主要河川の80%は魚が棲めないほど水質が悪化していると言われています。
 また、長江には毎日4000万トンの産業廃棄物と生ゴミが投棄されているといわれますが、日本全体の廃棄物の量は一日100万トンですから桁違いです。
 しかし、これは中国だけの問題ではなく、カナダでは毎年10億トンの未処理の汚水が川に流されているし、アメリカでは毎年50万トンの除草剤や殺虫剤が撒かれ、
 そのためアメリカの河川の40%は釣りや水泳に適さない状態になっています。

 いずれにしても、我々は水を無尽蔵の資源と誤解してきたのですが、現在の利用方法を改めないと、1995年に世界銀行副総裁イスマエル・セラゲルディンの言葉「20世紀は石油を巡って戦争が繰り返されたが、21世紀は水を巡る紛争の世紀となる」が現実になりかねないと思います。





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