TOPページへ論文ページへ
論文

 「名も知らぬ/遠き島より流れ寄る椰子の実一つ/故郷の岸を離れて/汝はそも波に幾月」という島崎藤村の有名な「椰子の実」という詩があります。
 これは渥美半島の伊良湖岬に滞在していた民俗学者の柳田邦男が海岸に流れ着いた椰子の実を見たということを、島崎藤村に話をしたことから生まれた詩ですが、明治時代には海岸へ流れ着く漂流物もなかなか風情がありました。

 しかし、最近では海岸へ流れ着く漂流物は環境問題とともに国際問題にもなっています。
 11月14日と15日の2日間、富山で「第1回北西太平洋地域における海岸ゴミに関する国際ワークショップ」が開催され、日本、中国、韓国、ロシアの4カ国から専門家が集まって、この漂着物の問題への対処を検討しました。
 これ以外にも、同じ11月3日と4日には島根県の隠岐島でも、日本と韓国の自治体関係者、研究者、NPOの人たちが集まって「島ゴミサミット・おき会議」を開いて、問題を議論しています。

 なぜ、このような検討が必要かということですが、第一に漂着物の量が中途半端ではないということです。僕も知床半島をカヤックで周回するとき、キャンプをするために上陸しますが、海岸には大量のゴミが打ち上げられていて驚きます。
 日本の海岸に打ち上げられるゴミの量は毎年11万トンという推計がありますが、一人の日本人が年間に捨てる一般廃棄物の量は0・4トン程度ですから、28万人、すなわち前橋市の市民全員が捨てる量に匹敵します。これは海岸の景観を損ねたり、危険なので収集して処理しないといけないのですが、地方自治体は財政難で予算が捻出できないというわけです。

 第二は危険だということです。43万個の漂着物を収集して分類した結果を見ると、一位が発泡スチロールで15%、二位がタバコのフィルターで14%、三位がプラスチック破片で11%、四位が空き缶で5%、五位がペットボトルで4%となっています。
ここまでは一度でも海岸に言った方には想像出来る光景ですが、少数でも驚くべきモノが漂着しています。丸木舟や仏像やテレビジョン受像機はまだ理解できますが、危険なものでは、針のついた注射器とか大型ガスボンベ、さらにはミサイルまで流れ着いています。

 第三は環境への影響です。釣り針や釣り糸を海鳥が飲んで死んでしまうという例はよくありますが、ハワイではアホウドリのひな鳥の胃の中から100円ライターや歯ブラシが出て来たとか、ウミガメがビニールシートを食べて死んでいたという例も報告されています。
動物が死ぬのも問題ですが、有害物質が食物連鎖で濃縮されて、人間が食べる魚などが汚染されるという危険もあります。

 第四が、富山で開かれた国際ワークショップの背景ですが、外国で捨てたゴミが他国へ漂着するという国際問題です。
 今回、富山で国際会議が開かれたのは、日本海側の海岸に流れ着くモノにはハングル文字や中国の漢字やロシアの文字が書かれたものが多いからという背景がありますが、日本語の書かれた商品がハワイやアメリカの西海岸にも到着していますから、日本にも問題がないわけではありません。

 当面の対処方法は到着した側で拾って処理するということになります。例えば、今年、世界自然遺産になった知床半島では、地元の羅臼町や斜里町が企画して、全国からボランティアが参加するクリーンボランティア作戦で清掃していますが、1回で数百キログラムのゴミが回収されています。
 僕が主宰している長崎県の九十九島群島塾のメンバーも、カヤックで島の海岸のゴミを回収する活動をしていますが、このような活動は全国各地の海岸で行われています。
 国際協力で行われている活動もあります。日本と韓国の中間にある長崎県の対馬は、毎年、韓国の釜山外国語大学の学生が100人以上来て、対馬の海岸のゴミを拾っています。一回で1立方メートルの容積のビニール袋で750袋分は収集されるということですから、大変な量です。

 なぜ韓国の学生が来るかというと、2002年に、この問題を研究している鹿児島大学の藤枝助教授が対馬の海岸で拾い集めた使い捨てのライターの国籍を調べたところ、中国製が40%、韓国製が22%、日本製が5%という内訳でした。その情報を知った韓国の学生が申し訳ないと、ボランティアで収集に来たというなかなかいい話です。
 しかし漂着物の大半は外国からのものではなく、日本国内で海岸や川に捨てられたものらしく、他人のせいにしていてはいけないと思います。もとをたどれば捨てる人間に原因のある問題なので、ゴミが積み重なった海岸の景色を思い出して、ゴミを捨てないようにしていただければと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.