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論文

 10月13日木曜日に東京の上野公園と上野動物園で「マンナビ」の実験が始まりました。
 聞きなれない言葉だと思いますが、自動車で道案内をするのが「カーナビゲーション」すなわち「カーナビ」ですが、人間に道案内をするのが「ヒューマンナビゲーション」すなわち「マンナビ」というわけです。

 「カーナビ」はすでに自動車の40%以上に搭載されて、日本は世界でもっとも普及している国になりましたが、次の巨大な市場は自動車よりも数の多い人間だというわけで、携帯電話の画面に自分の居る場所を表示したり、道案内するサービスの実験が開始されています。
 例えば、東京駅に近い丸の内の仲通りでは、街路樹や建物など200カ所以上に付けてある四角い二次元バーコードをカメラ付き携帯電話で読み取ると、目の前の建物の案内が画面に表示されるようになっていますし、都バスの一部の停留所に付けられている2次元バーコードを同じように読み取ると、バスの接近情報や周辺の施設の情報を受信することも可能になっています。
 特に2007年4月以降はGPSの電波を受信する機能が携帯電話に標準搭載されますので、急速に「マンナビ」が普及するだろうということで、デジタル地図提供の大手ゼンリンなどは、すでに政令指定都市については、そのためのデジタル地図の準備を完了しています。

 今回の実験は、その先を目指したもので、正式には「東京ユビキタス計画・上野まちナビ実験」といわれるものです。
 公園の内部の約300カ所にICタグが設置されており、はがき程度の大きさの専用の端末装置を持っていると、自分の現在いる場所を、日本語、英語、中国語、韓国語のいずれかで案内してくれたり、上野動物園の内部でゾウの檻の前に行って、そこにある円盤の形をしたアンテナに携帯端末を近付けると、小宮輝之園長の顔が画面に現れて、ゾウの説明をしてくれたり、画面のボタンに触ると、アジアゾウの生態についての画像を見たり解説を聞いたりすることができます。
 また、上野公園にある西郷隆盛の銅像の前へ来ると、西郷隆盛の生涯についての説明や、ここに銅像が建てられた由来などを教えてくれるというサービスもあります。
 この実験は今月末まで行われており、事前に東京都の「ICタグ実証実験事務局」(03-4519-5048)に申し込めば、だれでも無料で体験できます。
 来週の10日木曜日の13:30分からは、東京国立博物館の平成館で、このシステムを開発した東京大学の坂村健教授や私が出席して、この技術についてのシンポジウムも開催されます。

 このような技術を広い意味でユニバーサルデザインといいます。
 「ユニバーサル」は「だれでも」という意味で、健常者も障害者も高齢者も区別なく、だれもが生活しやすい街を作ったり、誰もが使いやすい道具を開発したりすることです。
 これはアメリカのノースカロライナ州立大学に設置されたユニバーサルデザイン研究所のロナルド・メイス所長が1990年に提唱した概念です。
 しばらく前に「バリアフリー」という言葉がよく使われました。これは歩道の縁石を斜路にして車椅子の通行ができるようにするということが代表的な例ですが、すでに存在している生涯となっている施設や道具を、だれもが使えるように改良するということです。
 しかし「ユニバーサルデザイン」は、最初から、だれもが差別なく利用できる都市や施設や道具を社会に提供するという、さらに進んだ考え方です。
 例えば、公衆電話のテレホンカードや地下鉄のメトロカードでは、一方の端に小さな切り込みがありますが、あれは目の不自由な方でも、どちらから機械に差し込めばいいかが分かるようにしたユニバーサルデザインです。
 摘む部分が普通のものより大きいクリップが販売されていますが、これは指の力の弱い人でも開くことが出来るようにしたユニバーサルデザインの道具です。
 ワードプロセッサーの画面も文字の大きさを自由に変えることができるようになっていますが、これも一例です。

 このような個別のモノだけではなく、ユニバーサルデザインを普及するための制度も用意され、アメリカでは1990年に「ADA(American with Disabilities Act)」が成立し、従業員15人以上の事業所は職務能力のある障害者の採用を拒否してはいけないし、昇進などで差別をしてはいけないとか、公共施設やホテルや飲食店では、障害者が自由に出入りできない場合は違法になるなどということを決めています。

 日本でも1994年に「ハートビル法」が制定されて、建築物は高齢者や身体障害者などが円滑に利用できるような施設にしなければいけないと義務づけています。
 最近、地下鉄の駅などでエレベータの設置が増えているのも、それを反映したものです。
 今回の上野公園での実験は、日本の得意とする情報技術で、ユニバーサルな社会を実現しようということを目指したものということができます。





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