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論文

 今日10月13日は旧暦の日付(新暦では11月26日)では137年前の明治元年に明治天皇が京都から東京に到着され、江戸城が東京城と名前が変わった日です。
 京都では現在でも、天皇がその年の9月20日に京都を出発されて江戸に行幸されただけで、現在でも首都は京都であると主張しておられる方々もおられますが、普通には東京へ遷都された日ということになっています。
 今日は最近あまり話題にならなくなった首都機能移転について考えてみたいと思います。

 まず遷都と首都機能移転はどう違うかということですが、一般には天皇の日常居られる場所も移動する場合を遷都、司法、立法、行政という国家の中枢機能である三権が移動するだけの場合を首都機能移転と区別しています。
 現在は首都機能移転として議論されていますが、それにも様々な案があり、東京を中心にして関東一円に機能を分散させる「展都」、つまり首都機能を広域に展開するという案、また司法、行政、立法を別々の場所に分散させる「分都」、東京の防災機能を高めるなどの改造をするという「改都」なども議論の対象になっています。

 これは興味深いことことですが、江戸から明治に移るときも同様の議論があり、大久保利道は、京都は伝統重視の風潮が強いのために改革をする拠点としは適切ではなく、大阪に「遷都」をしようという意見でした。
 幕臣の前島密は江戸への「遷都」、江藤新平は江戸と京都の東西二京論、現在で言う「分都」を主張していました。さらに木戸孝允は京都を帝都、すなわち天皇の居られる場所、江戸は政治の中心として東京、大阪は経済の中心として西京という三都とし、天皇は各都を順番に行幸される案を提案していました。
 そこで明治政府の中枢にあった人々が、いたずらに京都の人々を刺激して騒動にならないようにという配慮から、天皇に東京行幸をしていただき、そのままなし崩し的に東京を首都とするように企てたというのが実情のようです。
 したがって、東京に遷都するという詔や政府の布告などはないために、最初にご説明したような京都の人々の主張が出てくるという背景があるというわけです。

 明治時代はともかく、戦後も何度も遷都論はありました。第一波は1960年代で、この時期、一年間に東京に流入超過人口が40万人近くになって過密状態なので、その解消のために様々な提案がなされ、東京湾埋立計画なども登場しました。
 第二波は日本列島改造ブームなどとともに国土の均衡ある発展を目指す国土総合開発計画が検討されたときです。
 そして90年代から始まったのが第三波ですが、今度は1992年に「国会等の移転に関する法律」が制定されて検討されていますので、従来のように話題にならなくなったから消えるということになっておらず、1999年12月に国会等移転審議会が、「栃木・福島地域」と「岐阜・愛知地域」を候補地とし、さらに高速交通基盤が整備されれば「三重・畿央地域」も含めるという3カ所を対象にした答申を出し、現在も細々と議論が続いているという状態です。

 ここからは僕個人の見解ですが、そもそも根拠が曖昧だという問題があります。これはある政治家から聞いた話ですが、ある大物政治家にゴマをすった子分の政治家が「先生の地元に国会議事堂を建設しましょう」と持ちかけたのが第三波の発端だという話もありますし、なぜ首都機能移転が必要かという根拠も曖昧です。
 最初は東京への一極集中是正が目的とされていました。ところがバブル経済崩壊で東京の人口が減り始めたので、次は景気浮揚対策のための公共事業として構想されました。しかし流石にそれでは品がないということで、今度は行政改革にからめて「引っ越し理論」というものが捻出されました。政府をスリムにする必要があるが、同じ場所のままではなかなか人員削減などできない。しかし、引っ越しをするときには、要らない家具などを捨てやすいように、政府も引っ越しをすればスリムになるという意見です。

 ところがこれも2000年に地方分権一括法が施行されて中央政府の権限は地方へ移管されましたし、2001年には省庁再編が実施され、効果はともかく、小さな政府を目指す方向に動き出し、根拠が薄弱になりました。このように目的が二転三転して、とても「国家百年の計」というような議論になっていないのが、これまでの経緯です。
 移転候補地域になっている、ある県の知事に「首都機能移転は可能性がありますか」と聞いたところ、「実現しないに決まっているが、我が県の名前が有名になればそれで十分だ」という答えでした。
 そして現在の国家財政の状況からすれば、首都機能移転のために何兆円も使う余裕はないと思います。従って「国会等の移転に関する法律」を廃止して、箱物で国の将来を実現するのでなく、制度で実現するべきだと思います。





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