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論文

 先週月曜日の9月26日に、アメリカのペンシルベニア州の連邦地方裁判所で興味ある裁判が始まりましたので、その話をさせていただきたいと思います。
 人類の誕生について、進化論以外の考え方を学校で教えるのはアメリカ合衆国の憲法に違反するかしないかということについての裁判です。
 1859年11月にイギリスの生物学者チャールズ・ダーウィンが『種の起源』という本を出版しますが、この中に書かれている内容が進化論と言われるものです。
 その内容は自然淘汰説(ナチュラル・セレクション)と言われ、
   ・生物の性質は同じ種であっても個体ごとに違いがあり、その違いは親から子に伝えられたものである
   ・生まれた子のすべてが生き残るわけではなく、環境に適合した子が残る
    (適者生存:サバイバル・オブ・フィッテスト)
   ・その結果、生存に有利な性質をもつ子孫が繁殖し、進化が起こる
 その結果、人類はサルから進化したということになるわけですが、これについては延々と論争があり、生物の進化は、そのような唯物論や機械論だけで説明できるものではなく、何らかの知性が関係しているという学説、インテリジェント・デザイン(ID)論という考えが根強くあります。

 この宇宙が存在していることを、目的も計画も無く、機械的な関係だけで説明するのではなく、何らかのデザイン、すなわち、構想とか意志とか設計というものが作用していると説明するべきだという考えです。したがって神というわけではないのです。
 アメリカでの反進化論の流れには歴史があるのですが、それには『旧約聖書』に書かれていることは一字一句正しいというファンダメンタリスト(原理主義者)が強い力を持っているという背景があります。
 その人たちは人類はヤハヴェによって紀元前4004年に創造されたと信じていますから、進化論など言語道断というわけです。
 そこで20世紀初頭から、公立学校の教育の場で進化論を教えることを阻止する法律を各州で成立させてきたという経緯があります。

 それに反対するアメリカ市民自由連合(ACLU)が、学校で進化論を教えて騒ぎにし、裁判で争って法律を廃止しようと考え、1925年に志願者を募集しました。
 そこで手を挙げたのがジョン・スコープスという体育の教師で、テネシー州で進化論を教えて逮捕され、目的通り裁判になしました。しかし、結果は有罪で100ドルの罰金刑になり、法律を廃止することにはならず、40年以上、反進化論が存続することになりました。これが有名なスコープス裁判、通称モンキー裁判といわれるものです。

 次の見直しの契機になったのは1957年のスプートニクショックです。公立学校の科学教育が適切ではないからソビエトに出し抜かれたのだということになり、1967年にテネシー州で反進化論法が廃止され、翌年にはアーカンソー州で特定の理論を抹消することは、表現の自由や信教の自由を扱っている合衆国憲法修正第1条に違反するとの判決が出ました。

 やっと落ち着いたようですが、相手もさるもので、1981年にはアーカンソー州とルイジアナ州で、進化論と反進化論に均等の授業時間を与えるという法律を制定することに成功しますが、これも1982年と87年に違憲判決が出され、ついに一区切りがついたのです

 さらに、この9月から新しく裁判が始まりました。
 これはペンシルバニア州のドーバー地区の教育委員会がID論も含む進化論以外の理論も教えることを決めたために、「神という言葉を「知性」に置き換えただけのID理論はキリスト教の創造説の衣替えにすぎない」と訴訟したというものです。
 学者にも賛否両論があるのですが、今年8月にブッシュ大統領がID論を学校で教えることはいいことだと発言していますので、裁判の行方が注目されています。
 ちなみに、昨年11月にCBSが行った調査では、55%のアメリカ人が人は神が創造したと考えているという結果だそうですから、アメリカも多様な側面があると思います。

 日本でID論を教えようとすれば、非科学的と猛攻撃を受けそうですが、擁護する学者もいます。「人間がサルの子孫という非科学的な神話は人間の自己否定を促し、その退行や動物化を正当化する」とか「生物は無生物から発生したとか、人間の祖先はサルであるという唯物論的教育で、生命の根源に対する畏敬の念が育まれるわけがありません」いう意見の学者も居ますし、ID論を検討するための学会「創造デザイン学会」も設立されています。

 しかし、ダーウィンの進化論も化石による証拠があるわけではないし、実験で証明されたわけでもなく、仮説に過ぎないので、やはり多様な意見を知って柔軟に思考する訓練をするほうがいいのではないかと思います。





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