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論文

 来年3月を一応の期限として平成の市町村大合併が進行しています。このように全国規模で大々的に市町村合併が実施されたのは今度が3回目です。
 最初は明治21年から22年にかけての明治の大合併で、7万1314の市町村が1万5859と、ほぼ4・5分の1になりました。この主要な理由は、初等教育と徴税と戸籍の管理を市町村が行うことになり、それに見合った規模として最低でも300戸から500戸の世帯が必要ということで実施されました。それ以外に鉄道ができて、それまでであれば行き来が難しかった地域も簡単に行き来できるようになったという背景もあります。

 次は昭和28年から31年にかけての昭和の大合併で、9868から4668とほぼ半分になりました。これは戦後になって消防と警察が地方自治に組み込まれたので、最低でも8000人程度の人口が必要ということで実施されました。これも同様に道路交通の発展が背景にあります。

 そして今回の平成の大合併ですが、平成15年4月1日に3190であった市町村数が、2年後の今年の4月1日に2395となり、さらに来年3月末には1822と1・7分の1になる予定です。明治から数えると40分の1近くになりました。
 今回の合併の理由は、2000年4月に地方分権一括法が施行され、市町村に大幅に権限が移されたので、それに対応する規模が必要なこと、それからきわめて少数の市町村を例外として、どこも財政難であり、規模を増やして解決しようということ、そして少子高齢社会が本格化するので、老人介護などを考えると小規模では対応できないことなどが挙げられます。

 今回の合併では、どこと一緒になるかが大きな問題でしたが、基本的にはお互いに隣どうしの市町村が一体となっています。このように一体となった関係を英語ではコミュニティと言いますが、日本語では「地縁社会」と訳してきました。土地が仲立ちする縁という訳ですます。
 コミュニティは語源を辿ってみると、ラテン語の「クムムヌス(cummunus)」ですが、これは一緒にとかお互いにという意味の「クム」と、贈り物をするという「ムヌス」が一緒になった言葉で、お互いに贈り物をしあう関係を表す言葉のようです。
 かつて宅配便のなかった時代には、贈り物を渡す相手は隣近所ということで、同じ土地に生活する人々とは付き合いがあったのですがが、最近の都会では隣の家とは付き合いがないどころか、どういう家庭なのか良く知らないというのが実態です。
 僕も高層アパートに住んでいますが、同じ階の人でさえほとんど知らない状態です。それでは、お互いによく知っているのは誰かということになりますが、これは圧倒的に会社の同僚です。隣の家の家庭の事情はほとんど知らないけれど、会社の隣の席の同僚の家庭の事情は、最近の夫婦仲や子供の受験の結果までお互いに筒抜けです。
 そこで、この関係を会社の縁ということで、「社縁」、もしくは職場の縁ということで「職縁」といったらいいと思います。時代は「地縁」から「社縁」なのです。

 これには理由があります。3日後に国勢調査が行われますが、日本で最初の本格的な国勢調査が行われた1920年の結果を見ると、半分強が一次産業に就業しており、残りを二次産業と三次産業が分けていました。ところが2000年には一次産業は5%になり、三次産業が65%と飛躍しています。
 言うまでもありませんが、農林漁業の職場は家の周囲ですが、二次産業の人は工場へ、三次産業の人はオフィスへと通勤しますから、家よりも職場にいる時間の方が多くなるのです。こうして日本の地縁社会は崩壊していきました。

 ところが最近、さらに新しい縁が登場してきました。僕は毎日、何十通というメールを国内外の人々とやり取りしています。多くは出会ったことのない人ですが、頻繁に情報のやり取りをしていると、お互いに相手のことをよく知っている関係になります。
 これを情報通信の縁ということで「情縁」でもいいのですが、誤解を招くような名前なので「通縁」と言ったらいいと思います。これが社会の中で大きな役割を占めてきたのです。
 今回は合併が実現しませんでしたが、群馬県の川場村と東京都の世田谷区が合併を検討しました。理由は世田谷区の保養研修施設が川場村にあり、小学生が林間学校で相互訪問し、すでに100万人の世田谷区民が川場村に宿泊しているからです。
 コミュニティは相互に贈り物をする関係、すなわち親密な信頼関係があることが前提ですから、財政問題を解決するというためだけで近隣が合併するという次元を超えた新しい行政区画のあり方を考えたらどうでしょうか?





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