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論文

 今週のテレビジョンの放送予定を調べてみると、韓国の番組が多数並んでいます。
 TBSでは毎日14時から「夏の香り」、日本テレビでも毎日午前10時25分から「美しい彼女」、フジテレビでは毎週土曜日に「悲しき恋歌」、NHKでも毎週木曜日に「チャングム」と「初恋」、BSフジでは毎週水曜日午後10時から「恋愛都市/恋がしたい」、さらにWOWOWでも午前10時から「1%奇跡」と、大半の局で韓国の映画やテレビジョン番組が放送されているという状態です。
 これは日本だけではなく、アジア生活意識調査によると、台湾の人々が見るテレビドラマは1位が韓国で23%、2位が日本で18%、3位が欧米で3・5%という結果です。

 これは偶然に人気が沸騰したのではなく、きわめて戦略的な政策の結果です。
 映像などのビジネスをコンテンツビジネスといいますが、韓国がこの分野に目覚めたのは1988年のソウルオリンピックのときです。このときにオリンピックのマスコット人形が大変に売れ、またそのマスコットの権利でも利益をあげたので、キャラクタービジネスに目覚めたのが発端です。
 そこで1990年代に入って、この分野を産業として育成するために、まず1999年に「文化産業振興基本法」を制定して基礎を作り、2000年には金大中大統領が「文化観光部を中心にコンテンツ産業の育成に国家主導で取り組む」と宣言し、2001年には「コンテンツコリアビジョン21」、2002年には「オンライン・デジタルコンテンツ産業振興法」を制定して努力してきました。
 そして1997年以後「ソウルアニメフェスティバル」が毎年開催され、この分野の世界最大のイベントになっていますし、映画やアニメーションを教育する大学が327校にもなっています。
 それに比べて日本では、伝統ある日本大学の芸術学部映画学部以外には、京都精華大学に2006年からマンガ学部ができるなど、数えるほどですから差がつくのも当然ということです。

 韓国が熱心な第一の理由は、経済的に発展している分野ということがあります。映画だけではなく放送なども含めた世界のコンテンツビジネスは2000年に1兆ドル、約100兆円と推定され、世界全体のGDPの合計31兆ドルの3・2%にもなっています。しかも成長率が現在は年率3%程度ですが、2006年には6・5%になり、GDP全体の成長率4・4%を大きく上回るという勝ち組産業です。
 最大はアメリカで5000億ドルにもなり、GDPの5%を占める大産業ですし、そのうち輸出が860億ドル、10兆円近くにもなりますから、輸出産業としても重要です。
 日本も頑張っていないわけではなく、1091億ドルでGDPの2%に相当する12兆円ですが、日本の鉄鋼産業が5兆円の規模ですから、もはや巨大産業と言っていい時代です。
 いずれにしても世界が情報社会に移行する時代の重要な経済活動というのが、韓国のみならず、世界がコンテンツビジネスを目指している第一の理由です。

 第二はコンテンツの輸出が世界に与える文化的影響力が注目されていることだと思います。
 1990年代になって情報社会が本格的に始まり出した時代に、これからの国家の力は武力のようなハードパワーではなく、情報とか文化というソフトパワーだと言われるようになりました。
 そのソフトパワーの代表が映画や音楽などのコンテンツです。アメリカは戦前から「貿易は映画に続く」というようなキャッチフレーズで、映画によってアメリカを宣伝するという戦略を推進してきました。
 その結果、現在のイギリスでは上映されている映画の90%以上がアメリカ映画、イタリアやドイツでは80%近く、フランスや日本でも60%近くがアメリカ映画です。
 その影響で日本でも留学するならアメリカ、野球をするならアメリカ、旅行をするならアメリカということになりますから、このソフトパワーの威力は大きいと思います。
 フランスは「国境を越えるテレビ指令」でテレビジョン放送の一定時間以上は自国の映画や番組を放送しなければいけないという規定まで制定していますが、なかなか防げない状態です。

 それでは日本は何をしているのだということですが、最近やっと目覚めはじめ、自由民主党の総務部会「ポップカルチャー政策憲章」を作って、人材の育成や国際イベントの開催、海外への宣伝推進などを骨子として検討していますし、内閣府の知的財産戦略本部でも「日本ブランドワーキンググループ」を設置して検討していますが、怒濤の躍進をしている韓国と比較すると後手に回っている印象です。
 ものづくりというハードパワーも大切ですが、影響力からするとソフトパワーのほうが効果が大きいので、日本も底力を発揮する必要があります。





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