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論文

 最近は水族館が大人気で、東京近郊でも「新江ノ島水族館」や「エプソン品川アクアスタジアム」を多数の方々が訪れておられます。
 日本人にとって、これまでの水族館は生まれてから死ぬまでに3度行くところとされていました。最初は自分が子供のとき、2度目が結婚して生まれた子供を連れて、3度目が年老いてから孫を連れてというわけですが、最近は大人が友人同士とか恋人同士で行くという場所に拡大し、少なくとも4度は行く場所に変化しました。
 この夏もお子様連れや恋人同士で行かれる方も多いと思いますので、今日は水族館について考えてみたいと思います。

 あまり知られていませんが、日本は水族館大国です。世界には500館ほどあるといわれていますが、ヨーロッパに約200館、アメリカに約100館、そして日本に約100館あるようです。
 人口1000万人あたり何館かと計算してみると、ヨーロッパは2・8館、アメリカは3・5館であるのに対し、日本は5・6館ですから、確かに水族館大国だと言っていいと思います。
 さらに水族館を「50種類以上の水生生物と魚」を飼育している施設という定義にすると、アメリカの65館に対して、日本は81館ですから、名実共に大国です
 さらに水族館の巨大な水槽のガラスを作る世界三大企業のうち2社が日本の企業「日プラ」と「菱晃(りょうこう)」ですから、水族館の技術大国でもあります。

 現在、北海道旭川市にある旭山動物園が人気で、この7月だけでも27万5000人が入場し、昨年は年間で145万人になりましたが、全国の動物園の平均では1施設あたり45万人程度です。
 しかし、水族館も全国平均では1館あたり40万人程度ですし、今年4月に開館したばかりのエプソン品川アクアスタジアムは月平均で25万人、年間では200万人を突破しそうですから、動物園に劣らない人気です。
 それは冒頭にも説明しましたが、子供相手の施設から大人も楽しむことの出来る施設に変貌したことが大きな要因になっていると思います。
 僕はアメリカの2大水族館といわれる西海岸の「モントレー水族館」と東海岸の「ボルチモア水族館」に行ったことがありますが、大人の観客のほうが圧倒的に多く、日本もその方向に変わって成功しているのだと思います。

 水族館の歴史を調べてみますと、紀元79年のベスビオス火山の大爆発で灰に埋まってしまったポンペイの遺跡に、「アクアリオ」といわれる石造の水族館があったそうですが、これは食用にするウツボを飼っていた生け簀のようなものなので除外すると、観客に魚を見せる水族館はロンドンで1871年に建設された「クリスタルパレス水族館」が最初といわれています。ここでは毎週2-3回、15リットルほど水の入るカメで海水を運び、海の生物も飼っていたそうですから、本格的な水族館でした。

 日本では明治15年(1882)に上野動物園の一部に「観魚室」といわれる水族館が登場し、10個の水槽のある木造の建物で魚を見せていましたが、記録によると、すべて淡水に棲息する生物で、魚が120匹、エビやカニが77匹で、「縁日でも見られる金魚の類は速に何か他の物と取替えて貰いたき」とか「平々凡々珍しくもなんともなき鮒、金魚などを入れ置くは情なき事」と批判されていたほどですから、それほどの人気ではなかったようです。
 海水の生物も見せる本格的な水族館の最初は明治23年(1890)に神奈川県の三浦半島の三崎に設置された東京大学理学部臨界実験所の付属水族館で、以後、京都大学理学部付属瀬戸臨界実験所の水族館(和歌山県白浜)、東北大学理学部付属浅虫臨界実験所の水族館(青森県浅虫)ができ、次第に民間へも普及して行きます。
 民間の水族館は明治18年(1885)に「浅草水族館」が登場しますが、1年で消滅してしまい、本格的な施設は現在の「新江ノ島水族館」の初代になる施設が明治35年(1902)に完成しています。

 水族館の人気は癒しの効果にあるというのが一般的ですが、人間のはるか来し方を想いだすからではないかと思います。
 先週、人間の体の4%は様々なミネラルで構成されているという話をさせていただきましたが、その成分と海水の成分は大変良く似ています。例えば、血液はナトリウムが53%、塩素が41%、カルシウムが1・8%、カリウムが1・4%などですが、海水はナトリウムが42%、塩素が48%、カルシウム1・8%、カリウムが1・7%です。さらに我々が母親の胎内に居るときには羊水のなかに浮かんでいますが、そのミネラルの比率もナトリウムが52%、塩素が43%、カルシウムが1・6%、カリウムが1・6%です。

 我々の祖先は4億年前に海中から陸地に上陸して発展してきましたが、その記憶が体には残っており、お盆に故郷に戻ってほっとするのと同じように、はるかな過去を想いだすから水族館に人気があるのではないかと思います。





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