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論文

 ライブドアによるニッポン放送の株式取得が議決権ベースで50%を越え、メディア業界が急速に変化しそうな気配ですが、ライブドアの堀江社長の言葉を引用しながら、これからのメディアにどのような変化が予測されるかを考えてみたいと思います。

 3月3日に堀江社長が日本外国特派員協会で講演したときに「5年間放送業界の人と仕事をしてきたが、スピードが遅い。スピードアップさせないとタイムオーバーになってしまう可能性が高い」と言っています。
 これは実にもっともな発言で、工業経済社会から情報経済社会に移行していくときに、経営学の分野では、エコノミー・オブ・スケール、すなわち規模の経済から、エコノミー・オブ・スピード、速度の経済に変化しなければいけないと盛んに言われましたが、まさに堀江社長の発言通りの内容です。
 それを裏付ける資料があるのですが、通信や放送のメディアが社会に普及するのにどれだけの時間がかかったかということを調べてみると、日本の場合、人口の10%に浸透するのに、新聞が70年、電話が80年、ラジヲが19年、テレビジョンが8年と、新しく登場したメディアほど短期間になっていますが、インターネットはさらに記録を更新し、わずか5年です。
 アメリカについても同様で、新聞は102年、電話は38年、ラジオは9年、テレビジョンは7年、インターネットは4年です。アメリカについては50%の世帯に普及するまでの年数も数字がありますが、電話が70年、ラジオが12年、テレビジョンが9年、インターネットが5年です。
 インターネットビジネスの分野の人々の実行が素早いのも理解できると思います。

 2月8日のインタビューで「放送は通信の一形態である」と発言しておられますが、これは我が意を得たりの発言で、私も以前から主張していたことです。
 通信や放送の特徴を何人の人間から何人の人間へ情報を伝達するかという構造によって分類すると、一人から一人へ情報を伝達する場合には電話というメディアが利用されてきました。一人の人間から多数の人間への情報伝達はラジオ放送やテレビジョン放送というマスメディアが対応していました。多数の人間から一人の人間に情報を伝達するのは郵便程度しかありませんでした。そして多数の人間同士が情報を交換するためには集会しかなかったのですが、これは人数に限界があります。
 ところがインターネットは、一人と一人もメールやIP電話でできますし、一人と多数もインターネット放送でできますし、インターネットオークションのように多数から一人へも可能ですし、多数同士も可能なのです。まさにインターネットによる通信は、電話もファクシミリもラジオ放送もテレビジョン放送も郵便も集会も、すべて包含してしまったのです。これはメディアの融合といわれますが、当面、堀江社長はニッポン放送を通じてインターネットとラジオ放送の融合をしようとしていると理解することができます。

 このように見てくるとラジオの将来が心配になります。実際、2004年の広告費はインターネットが1800億円となり。ラジオ放送の広告費をわずかですが上回りました。
 そこで、堀江社長の言葉ではなくて、メディアの理解についての巨匠マーシャル・マクルーハンの言葉で対抗してみたいと思います。「メディアはメッセージである」という有名な言葉があります。
 これは、世界には様々な種類のメディアがあるが、それぞれ発信する情報には、そのメディアならではの特徴があるという意味です。新聞には新聞の、テレビジョンにはテレビジョンの、そしてラジオにはラジオでしか伝えられない特徴があるということです。
 それではラジオ放送でしか伝えられない情報は何かということですが、そこに登場するのがユビキタス情報社会という概念です。これは以前にもご紹介しましたが、いつでもどこでも通信が出来るということですが、とりわけ重視されているのが移動空間での通信です。
 現在、日本は世界でITSがもっとも普及した国ですが、自動車という移動空間は音声の独壇場です。さらに自律移動支援システムという歩きながら通信できるという技術の実験が今年から本格的に始まりますが、そこでも中心は音声です。そして、近い将来、ラジオ放送がデジタル転換したときに、ラジオの電波が伝えることのできる内容も飛躍します。
 まさにピンチはチャンスの言葉のように、移動空間でデジタル情報をやりとりすることに、従来以上の役割があると期待すべきだと思います。





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