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論文

 2月4日夕方に、「ローカル・マニフェスト推進首長連盟」と「ローカル・マニフェスト推進ネットワーク」が東京のプレスセンタービルで同時に結成大会を開催しました。マニフェストという言葉は一昨年の「日本新語・流行語大賞」に選ばれた言葉で、次第に社会に浸透してきましたが、普通にはカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスが1848年に発表した「共産党宣言」すなわち「コミュニスト・マニフェスト」が有名です。
 語源はラテン語で、「手」を意味するマヌスと「掴むことができる」というフェストゥスが合わさって、手に掴むことができる、すなわち、明確に理解できるという意味です。
 「共産党宣言」の序文には、「共産主義者が、その考え方、その目的、その方針を世界に向かって明らかにし、共産主義・妖怪伝説に対して、共産党自らの宣言を対置する、今が絶好のときである」と書かれていますが、今回のローカル・マニフェストも、そのような主旨で使われています。

 小泉総理の「公約を破ってもたいしたことはない」という議会答弁で、公約の価値が一気に低下したというよりは、公約の正体がはっきりしたと思いますが、これまでの公約は曖昧なものでした。
 そこで、日本新語・流行語大賞で表彰された、前の三重県知事で、現在は早稲田大学教授の北川正恭さんが、候補者は選挙のときに破ったらたいしたことになるマニフェストを発表して闘うべきだと言い出したのが、今回の2つの組織の結成に至った経緯です。
 破ってもたいしたことのない公約と、破ればたいしたことになるマニフェストの違いはどこにあるかというと、公約は明るい社会にしますとか国民を幸せにしますなど曖昧な内容でも通用するのですが、マニフェストは「数値目標」「財源」「達成期限」の3点を明確にしていることです。
 例えば、知事選挙のときに、ある候補者は、自分が当選したら、任期中に費用が50億円の県立大学を文部科学省の補助金で建設しますというように発表し、別の候補者は、任期中に費用が80億円の県立病院を地方交付税を財源として建設しますというような発表をして選挙に臨むというようにするわけです。

 これはどのような効果を狙っているかというと、第一に選挙民は投票する相手を選びやすくなります。自分は大学が必要だと考える人は前者に、病院のほうが重要だという人は後者に投票すればいいということになります。
 第二に当選した知事の評価も明確にすることができます。達成期限までに実現していなければ、次の選挙のときに投票を考え直すということになります。
 第三がもっとも重要ですが、選挙をする人の責任が明確になるということです。目標を明確にしているわけですから、どちらがいいかを自分で判断しなければならなくなる。これを主権在民というわけですが、親戚に頼まれたから投票したというようなわけにはいかないことになります。
 北川教授が選挙でマニフェストを実行しようと言っているのは、立候補する人も投票する人も、責任をもって地域を運営していくような社会を実現しなければ、日本は良くならないからだという信念からです。

 しかし問題もあります。第一に、国会議員や地方議会議員の場合は、どこかの政党に所属していれば、自分でこのような目標を達成しますと発表しても、政党が違う方針であれば実現できませんから、個人のマニフェストは困難です。そこで前回の衆議院選挙では、自由民主党や民主党は政党でマニフェストを発表したわけです。
 第二に、知事や市町村長でも、現在のように国からの補助金で多くの地方行政が実行されていると、国の補助金は自身の裁量では決定できない部分があるので、明確なマニフェストが作成できないという問題もあります。

 しかし、このような動きが出てきた背景には、私もお手伝いしていますが、1998年から発足した「地域から変わる日本」という改革派知事の集団や、石原東京都知事のように「東京から日本を変える」と宣言する知事が登場し、日本を変えるのは地方からだという潮流があると思います。
 今回の2つの組織もローカル・マニフェストという名前を付けているのはそのような想いが込められていますし、1週間後に投票がおこなわれる全国知事会の会長選挙が注目されているのも、地域から日本が変わる前触れではないかと思います。





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