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論文

 本年も最後の放送になりましたので、今年一年を振り返ってみたいと思いますが、一年を漢字一字で表現しようという企画がありますので、それを借用してみたいと思います。
 財団法人日本漢字能力検定協会が1995年から主催している「今年の漢字」という行事ですが、この一年を象徴する漢字一文字を国民投票で選ぶという趣向です。
 過去の例をいくつか紹介してみますと、1995年は阪神淡路大震災の年でしたので地震の「震」という漢字、98年は和歌山県の毒入りカレー事件や、所沢市で高濃度のダイオキシン汚染が発見された問題や、環境ホルモンが騒がれたので「毒」、2002年は北朝鮮に拉致されていた一部の家族が日本に帰国でき、経済も回復気配となり、童謡などのリバイバルもあったということで、帰るという「帰」という文字が選ばれています。

 そこで今年はということですが、9万1630票のうち2万936票と4分の1近くを集めた災害の「災」という漢字が選ばれました。参考までに2位は冬のソナタやヨン様の影響で韓国の「韓」でした。それ以外にも3位は地震の「震」、6位が「風」、7位が「嵐」、8位が「乱」と、災害に関連するような漢字が選ばれています。
 ちなみに、東京ではなく京都で発表される理由は明快で、日本漢字能力検定協会の本部が京都にあるからです。

 しかし、国民の世相を見る目は確かで、今年は災害の多い年でした。まず天災のほうでは台風が平均の年間2・6個という上陸回数をはるかに上回る10個となり、農林水産業の被害だけでも1兆円を超えそうだと推計されています。
 地震も9月5日には和歌山でマグニチュード7・3、震度5の地震、11月29日には北海道の釧路地方でマグニチュード7・1、震度5の地震、そして10月23日の中越地震は一部で震度7を記録する大地震で、34名の方が亡くなられるなど、被害も相当な規模になりました。
 もうひとつの災害である人災も異常な状態でした。今年2月から次第に背景が明らかになってきた兵庫県の「鳥インフルエンザ」事件は、社会にパニックをもたらしました。その証拠に、2月のインフォシークの検索項目の1位が「鳥インフルエンザ」でした。
 そのインフォシークの6月の検索項目では、6月1日に佐世保で発生した小学校6年生の女子児童が同級生を刺殺した事件が首位になっており、社会が驚愕したことが伝わってきます。それ以外にも異常な凶悪犯罪が目立ったと思います。

 このように「災」という漢字は確かに今年の世相を上手く反映したものだと思いますが、今年という年を長い視点から眺めてみると、個人的には転換の「転」という文字が相応しいのではないかと思います。
 例えば、日本の人口は来年あたりが頂点で、増大から減少に方向転換すると予測されています。また、国民の生活意識も、これまでのように仕事一筋や会社命という時代から、家庭や地域社会を重要だと思う人が急速に増大する方向に反転した時期です。さらに「災」の字が象徴するように台風や洪水の被害が急増した結果、ひたすら環境開発を目指してきた時代から、環境を保全したり以前の環境に回復したりすることが重要だという意識が強くなった時代でもあります。
 経済はなかなか判断できず、年末になって、政府の経済成長の見通しが修正されるというようなこともありましたが、そろそろ底を打って上向きに転換しはじめたのも今年ではないかと思います。
 そして年末のドサクサにまぎれて申し訳ありませんが、わたし個人も人生の転換点で、長年続けてきた公務員生活から自由業になり、この番組一筋の生活に転向しました。その区切りのためにケープホーンをカヤックで周回するという冒険をして人生の転機にしたということでも、「転」が今年の漢字に相応しいのではないかと思います。

 今回、「災」という漢字が選ばれた背景には、それが今年の特徴だったということ以外に、「災い「転」じて福となす」という諺があるように、天災・人災の両方の災害が異常に発生したことを梃子にして、来年以降には災害を減らしていこうという国民の気持が反映していると思います。
 それと同じように、すでに10年以上脱出できない日本の閉塞状況から脱却して日本が再生できるためにも、今年から来年にかけて、転換、転向の「転」の時期になればと期待しています。





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