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論文

 最近の新聞に究極の「ウソ発見器」が発明されたという記事がありましたが、今日は、この「ウソ発見器」について話をさせていただきたいと思います。
 例えば、マレーシアに生息する「カレハガ」という昆虫は枯葉そっくりの外観で敵から身を護り、「オオカレエダカマキリ」は枯枝そっくりの外観で餌となる虫をおびき寄せたりしています。アフリカの砂漠地帯には「リトプス」という植物が生育していますが、これは動物に食べられないように小石そっくりの形をしているそうです。
 このように動物や植物には擬態といわれる習性があり、ある意味ではウソの一種ですが、生存するために必死の姿と言えなくもありません。

 しかし、ウソを言う生物といえば何と言っても人間ということで、「旧約聖書」の「創世記」によれば、最初の人間であるアダムとエバからカインとアベルという兄弟が生まれていますが、兄のカインが弟のアベルを殺して人類最初の殺人を犯し、さらに神から「弟のアベルがどこに行ったのか」と聞かれて「知りません」と人類最初のウソを言ったということになっています。
 この話によれば、人間は誕生した直後からウソを言ってきたということになり、そのウソを暴くための、人間は無駄な努力もしてきたことになります。
 日本の古代には「盟神探湯(くがたち)」といって、熱湯に手を差し入れて、手がただれたら、その人はウソを言っていると判断されたり、真っ暗な部屋にロバを入れておき、その尻尾を触ってロバが鳴いたら、その人がウソを言っていると判断したりという様々な方法が工夫されてきました。

 しかし、現在のようなウソ発見器は1902年にイタリアのロンブローゾという犯罪心理学者が、ウソを言うと血圧や脈拍が変化するということを発見したことによって最初の装置が制作されました。とりわけ、緊張すると手に汗をかくという情動発汗という現象を利用して、皮膚電流の変化を測定することで精度があがりました。
 ウソ発見器のことを英語で「ポリグラフ」といいますが、これは多くの図形という意味で、脈拍や皮膚電流などの生理現象の変化を多数のグラフにするということから名付けられたものです。
 この番組では、僕は正しいことを言っても緊張して手に汗をかいていますから、確実に判定できない場合もあると思います。
 そこで、アメリカの裁判所では年間40万件以上、ウソ発見器が使用されていますが、完全にウソかどうかを判定できるわけではないので、証拠としては採用されず、参考資料にされています。

 そこで、多数の学者がより完全なウソ発見器を発見しようと研究をしているわけです。例えば、ヒューストン大学ではウソを言うと顔面の温度が上がるというので、サーモグラフィという表面の温度を測定する装置を使用したり、テキサス大学ではウソを言うと目の周囲の血流が増えるので、それを測定する装置を開発したりしています。
 これまでは脳指紋法、別名「P300」という方法が優れているとされてきました。これは様々な情報を人間に与えると、すでに知っている情報を見たり聞いたりしたときには、0・3秒後、すなわち300ミリセカンド後に、特徴ある脳波が現れるという規則を利用したものです。
 例えば、多数の名前とともに殺害された人の名前を混ぜておくと、その名前を聞いたときに反応するというわけです。

 今回の新しい方法はテンプル大学で開発されたものですが、人間がウソを言うときは、記憶のなかから本物の情報を取り出し、その情報を言わないように脳の中に閉じ込め、ウソの情報を創り出して、それを言うという順序で脳を働かせるので、そのときの脳の中を流れる血流の様子を測定するという方法です。
 そのためには、機能的核磁気共鳴断層撮影法(fMRI)という医療診断で使われている最新の装置を使って、脳内の活動の変化を測定しようというものです。実験では、モデルガンで射撃をさせ、ピストルを撃ったと言わせた人は4箇所で活動が活発になり、撃っていないと言わせた人は脳内の7箇所で活動が活発になったそうです。ウソを言うほうが脳の活動は活発だということです。

 問題は装置が何億円もする高価なもので、重要な犯罪のときには使用も可能でしょうが、年間40万件も使用することは現状では困難です。
 かつて大ヒットした中条きよしの「うそ」という演歌のなかに「折れた煙草の吸殻で、貴方のウソがわかるのよ」という歌詞がありましたが、このような発見能力のある女性に活躍してもらったほうがいいかも知れませんし、「どうせだますなら、死ぬまでだましてほしかった」という演歌もありますから、人間とウソの関係は複雑だと思います。





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