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論文

 先週末に熊本県の白水村という場所に行ってきました。阿蘇山の麓にあるのですが、阿蘇山からの伏流水が噴出している場所で、環境省が選定した「日本名水百選」にも選ばれています。
 村の中には水が噴出している場所が何箇所もあるのですが、名所になっているのは幹線道路のすぐ横にある白水吉見神社の境内で噴出している場所で、毎分60トン、一日にすると8万6000トンの水が池の底から湧き出ています。これは2万6000人の人口を養える量です。

 日本には、このように名水百選に選ばれている場所だけではなく、全国至る所で水が湧き出しており、水の豊かな国という印象があります。
 しかし一方、世界では水が不足している国は一杯あり、現在、毎日の飲み水に困っている人々は12億人も居るといわれています。世界の人口の20%です。そのように安全な飲み水が飲めないために病気になって死ぬ子供が毎年200万人も居るという統計もあります。さらに今から45年後の2050年には、毎日の飲み水が手に入らない人々は70億人にもなるという信じられない予測があり、この数字が正しいとすれば世界の人口の80%が飲み水不足になるという事態です。

 日本は大丈夫かと心配になりますが、現在、1年間に降る雨と雪の量が6500億トンあり、そのうち35%は蒸発してしまいますが、残りの4200億トンが川に流れたり湖に溜まったりして使うことのできる水になっています。
 現在、その4200億トンの20%に相当する900億トン程度しか使っていないので、この数字だけからすれば大丈夫です。
 まったく安泰かというと、そうではなく、日本は世界でも1、2を争う水の輸入国だという問題があります。
 ミネラルウォーターは500ミリリットルのペットボトルに換算して30億本も輸入していますが、これは量的には必要な飲料水の0・2%にもなりませんから、それほど問題ではありません。
 問題は穀物などの食料の形で輸入している水で仮想水(バーチャルウォーター)といわれますが、これが700臆トンから800億トンになります。しかし、今後、食料自給率を高めるために農業分野で水の需要が増えるとしても、使うことのできる水の40%程度ですから、まだまだ大丈夫です。

 問題は気象庁が予測した100年後の日本の降水量の予測です。この予測を見ると、北海道と山陰地方を除いて、全国各地の降水量が大幅に減ることになっています。
 例えば、関東地方から中部地方にかけては、年間150ミリメートルから200ミリメートル減ることになっていますが、東京の現在の年間降水量は1400ミリメートル程度ですから、14%も減ることになります。また、東北地方では100ミリメートルから150ミリメートルの減少が予測されていますが、福島の現在の年間降水量は1100ミリメートルですから、ここでも14%減ることになります。
 地球温暖化が影響していると思いますが、日本全体で平均して、降水量が10%減るとすると、使うことのできる水の量は3800億トン程度になりますから、仮想水も含めると、ほぼ半分が使われてしまうことになります。

 さらに重要なことは冬の積雪が減ることです。
 現在、日本全体で年間1メートル以上の積雪のある地域は北海道から山陰地方までの日本海側のほとんどですが、100年後には北海道と東北地方と北陸地方だけになってしまい、面積でいえば3分の1近くになってしまいます。
 これがなぜ重要な問題かというと、雪は自然のダムの役割をしているからです。長野県の田中知事が森林は保水力があるので「緑のダム」だと宣伝して、この言葉が一般に知られるようになりましたが、同じように雪は「白のダム」なのです。
 特に5月の田植え時期などに、雨が降らないのに水田に十分な水が供給されているのは、雪解け水が川に流れてきたり、地下水になったりしているからで、この供給源である雪が減っていけば、梅雨前に水を供給する源が大きく減るということになります。

 原因が地球温暖化だとすれば、これを止めることは至難の技ですが、可能な努力はする必要があります。第一には、植林などを進めて「緑のダム」を増やすことですし、それでも不足すると予測される場合には「コンクリートのダム」も必要かもしれません。
 しかし、最大に効果のある努力は「水と安全はタダ」という先入観を捨てて、水を節約することだと思います。よく使われる例ですが、歯磨きをしているときに、水を流しっぱなしにすると48リットルもの水をムダに流すことになります。4人家族で朝夕、歯を磨くとすれば毎日400リットルの水がムダになる計算です。台所での皿洗いや風呂でのシャワーも同様です。
 節約こそ最大の資源だという発想が重要だと思います。





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