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論文

 10月23日から31日までの9日間、渋谷のBunkamuraと港区の六本木ヒルズを主要な会場にして「東京国際映画祭」が開催されました。
 新作の「ターミナル」が特別招待作品になったためトム・ハンクスが8年ぶりに来日したり、ゴジラ作品の最終作とされる「ゴジラ・ファイナル・ウォーズ」が上映されるなどの話題で盛り上がりましたが、静かな話題になった分野がありました。
 「デジタルシネマ」です。映画の元祖は1891年にアメリカの発明王エジソンが発明した「キネトスコープ」という意見と、1895年にフランスのリュミエール兄弟が発明した「シネマトグラフ」という意見がありますが、いずれにしてもフィルムに撮影するということでは同じで、それが100年以上続いてきました。
 ところが最近、写真を撮影するカメラもフィルムカメラからデジタルカメラが主流になりはじめたように、映画もフィルムではなくデジタル撮影そしてデジタル映写する技術が登場してきました。
 もちろん携帯電話でも第三世代ではデジタル動画が撮影できますし、家庭用のビデオカメラにもデジタルムービーが登場していますが、映画館で上映するためには35ミリフィルムに匹敵する画質が必要ですから、それに耐えるような技術が開発され、次第に実用になってきたというわけです。

 現在、業界では「4K」といわれる基準と「2K」といわれる基準があり、「4K」というのは1画面あたりの画素数が横に4096、縦に2160の細かさで撮影できる技術、「2K」はその半分で、横に2048、縦に1080の細かさで撮影できる技術です。
 これがどの程度の細かさかというと、テレビジョンのハイビジョン映像は「2K」に相当するといわれますから、その2倍の細かさですし、4Kでは画面あたりの画素数は4096×2160=約880万ですから、デジタルカメラでいえば、800万画素の製品と同じになります。現在、高級なデジタルカメラが400万から500万画素ですから、おおよその見当がつくと思います。
 そして35ミリメートルのフィルムで撮影した映画の細かさを実現できるのが「4K」というわけです。

 この技術がなぜ注目されルノは、100年以上続いてきたフィルム中心の映画の制作方法や上映方法を大きく変化させると期待されているからです。
 映画はかつてのように撮影したフィルムをつなぎ合わせる編集だけで制作される時代ではなく、ポストプロダクションといって、画面を色々と加工する時代です。そうするとデジタル撮影された画像であれば、その加工が大変容易になるというわけです。
 今回の東京映画祭でデジタルシネマのシンポジウムが開催され、私も出席しましたが、そこでデジタル撮影されたソニー・ピクチャーズ・エンタテイメントの「スパイダーマン2」の一部が上映されました。7月から映画館で上映されていますので、御覧になった方もおられると思いますが、コンピュータ・グラフィックスと合成した場面がほとんどです。しかし、まったく合成した画面と感じさせないほど自然な状態です。これはデジタル撮影、デジタル処理の成果です。

 さらに重要な変化は上映方法が大変化するということです。フィルムですと、それぞれの映画館で上映するためにフィルムに焼き付けなければいけないのですが、このプリント代が高額であるし、世界の映画館に送ると輸送費もかかりますし、上映するたびに劣化するという問題もあります。
 ところが、デジタル映画であれば、どこかのセンターから通信回線で映画館に送ればいいということになります。今回の東京国際映画祭でも、関西にある研究所からインターネット回線を通じて東京の会場までリアルタイムで映画を送信して大画面で上映しましたが、通信で送られているということをまったく感じさせないほどでした。
 当然、将来は家庭に直接送信して、ホームシアターで最新作を大画面で鑑賞するという時代も予想されますから、映画の配給の構造も変わるのです。

 このような100年ぶりの映画の革命なので、世界各国がビジネスチャンスを求めて競争しています。
 まず世界の標準規格をどうするかということですが、これはやはりハリウッドが主導権をもち、ハリウッドの大手7社の映画会社が「DCI(Digital Cinema Initiative)」という組織を作って仕様を検討しており、これが世界標準になると予測されます。
 その規格にしたがって撮影機材や上映機材を製造する競争では、日本が先頭を走っており、松下電器産業、ソニー、日本ビクターなどがすでに製品を発表しています。

 そしてもう一つの競争が、それによって新しい作品を作るという分野で、最近、急速に映画界に躍進してきた中国や韓国が国を挙げて研究や作品製作への援助をしていますので、日本も努力しないと遅れてしまうと心配されています。
 私は「デジタルシネマ推進フォーラム」という団体の会長をしておりますので、何とか映画の復活のためにも努力したいと思っております。





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