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論文

 11月1日から20年ぶりに、福沢諭吉の1万円札、樋口一葉の5000円札、野口英世の1000円札が発行されることになり、1万円札が25億枚、5000円札が2億枚、1000円札が23億枚の合計50億枚、金額にして28兆3000億円が用意されています。なぜ1万円札だけ福沢諭吉の肖像が残るのかは不思議ですが、今日は紙幣についての話をさせていただこうと思います。

 なぜ、この時点で新しい紙幣が発行されるかといえば、自動販売機などの交換で1兆円ほどの経済効果も期待されていますが、本命はズバリ、偽札対策です。
 偽札作りは最近に始まったことではなく、例えば、明治3年には福岡藩が戊辰の役などで出費がかさんで巨額の債務を抱えたため、藩が偽札を発行して見つかってしまい、黒田長知知事が罷免されたという事件さえ発生しています。
 現在でも国家ぐるみで偽札を作っていると噂される国もありますが、流石に都道府県が偽札で財政をまかなおうという時代ではありません。
 しかし、コンピュータ技術が進歩したために素人が作る偽札が急増してきました。
 警察に届けられた偽札は2000年には4257枚で60%が1万円札だったのですが、2002年には2万211枚と5倍近くに増え、しかも1000円札が6割以上という変化が発生しました。今年はこれまでの動向をもとに推定すると、2万5000枚以上になり、1000円札が75%くらいになりそうです。すでにお分かりのように、自動販売機や自動券売機で使うのが目的です。

 そこで、この偽札封じに新しい紙幣を発行しようということになったのです。
 過去にも、同じような事例があり、1961年に秋田県で聖徳太子が描かれている1000円札の偽札が発見され、警察は1枚の偽札につき3000円の報奨金まで出して犯人を発見しようと努力しましたが、343枚も偽札が発見されても犯人の手懸りが掴めないので、1963年に新しい1000円札を発行することにしたのです。
 今回も偽札の防止のために新貨幣が発行されるのですが、当然、偽札防止のための新技術が駆使されています。

 いくつかの新技術を紹介しますが、この目的は(1)パソコンでは偽造できない、(2)自動販売機などの装置が偽札を発見しやすくする、(3)人間の目で見ても偽札と区別しやすいということです。
 技術の第一は印刷方法が凹版印刷なので、インクが盛り上がっており、パソコンのプリンターでは真似できないようになっています。
 つぎに紙幣の左下に楕円形のホログラムが印刷されており、角度を変えて見ると、桜のマークや日銀のマークや金額の文字がでてきます。また、潜像模様といわれ、お札を斜めから見ると、ローマ字で「NIPPON」という文字が浮かび上がってくるという工夫もされています。さらに、漉入れバーパターンといって、紙幣を光にかざして見ると1000円札では1本、5000円札では2本、1万円札では3本の太い線が紙に漉き入れられています。
 それ以外にも、パソコンのプリンターで印刷しようとしても、細かすぎて印刷できないマイクロ文字が印刷されていたり、紫外線を当てると浮かび上がる蛍光インクで印刷されていたり、様々な工夫がされています。

 それでも心配な方は、世界でもっとも優秀な偽札鑑別機は東京都台東区にある松村テクノロジーが作っていますから、それで調べてみればいいと思います。
 今年の8月に発売された機械は、10センチメートル×20センチメートル×20センチメートルの菓子箱を縦にしたような重さ3クログラムのもので、日本の紙幣とアメリカのドルとユーロの紙幣を1枚につき0・3秒で鑑別することができ、4500ドル、約50万円で販売されていますから、決して買うことのできない値段ではありません。この機械を通過することができた紙幣は本物といわれています。
 しかし、それではといって偽札を作ると刑法148条1項の「通貨偽造・変造罪」に問われ、3年以上、無期までの懲役刑になりますので、止めておいたほうがいいのですが、仮に偽札らしい紙幣を発見してしまったらどうするかということです。
 偽札だと知っていて使った場合はやはり刑法148条2項で、これも3年以上無期までの懲役刑ですから、警察に届けなければならないということになります。

 問題は届ければ新しい紙幣に変えてくれるかです。
 1977年にできた「偽造通貨発見届け出者に対する協力謝金制度」によって謝礼金を支払ってくれる場合もありますが、その偽札を作った犯人がすでに逮捕されていたりする場合には没収だけになるそうです。
 刑務所行きに怯えながらトランプのババ抜きのように、こっそり使って他人に渡すのか、没収覚悟で警察に届けるのか、貴重なコレクションとして額にでも入れて飾っておくのか、究極の選択というところです。





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