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論文

 9月1日に日本と韓国で同時に、インターネット上で「グーグルニュース」という情報提供サービスが始まりましたが、これがマスメディアの世界で静かですが大きな波紋を起こしています。そこで今日はこの「グーグルニュース」のもたらす影響についてお話させていただきたいと思います。

 「グーグルニュース」とはどのようなものかということですが、お手元のインターネットに接続されたコンピュータで「http://news.google.co.jp」と入力すると、その「グーグルニュース」の日本版を見ることができますので、御覧いただくといいのですが、「トップニュース」からまって、「社会」「国際」「経済」「政治」「スポーツ」「文化・芸能」「科学・テクノロジー」という8つの分野に分類したニュースが並んでいます。
 一見すると電子新聞のようです。確かに内容は電子新聞と同様ですが、非常に大きく性質の違うものです。
 まず、電子新聞は「マイニチ・インタラクティブ」にしても「アサヒ・コム」にしても「ヨミウリ・オンライン」にしても、新聞社が自社で集めたニュースをインターネット上に掲載しているのですが、「グーグルニュース」は独自に取材をしているわけではなく、「朝日新聞」「日本経済新聞」「ロイター通信」など、600以上の電子新聞などのウェブサイトに掲載された記事の重要部分を集めた内容ということです。
 アメリカでは2年前の2002年9月から同様のサービスが始まっていますが、これは6000以上のウェブサイトから集めた情報を掲載しています。
 そういうことであれば「ヤフーニュース」などが先行してサービスを提供しているのですが、「グーグルニュース」は人手を介さずに、完全に自動でニュースを編集しているという特徴があります。

 グーグルとは今年の8月19日にナスダック市場に上場して、一株100ドル以上の値がつき、時価総額3兆円となり話題になった会社ですが、1998年にスタンフォード大学の大学院に在学していた二人の学生が設立し、瞬く間に世界最大の検索サービスを提供する企業に成長したアメリカのベンチャー企業の名前です。
 この検索サービスは、世界の40億ページ以上といわれるウェブページの内容を7万台以上のコンピュータが自動的に調べて、35ヶ国語でキーワードを入力するだけで探すことができるようにしています。
 そこで、この技術を応用して、まずクローリングといわれる手法で、コンピュータが600以上の新聞などの情報源からニュースを自動的に集めてきます。次にクラスタリングといわれる手法で集めてきたニュースを分類し、重要さを判断して掲載します。この重要さの判断の詳細は公開されていませんが、色々な情報源に掲載されているものほど重要と判断したり、もとの電子新聞などでトップ記事になっている内容を優先したり、色々なサイトにリンクされている内容ほど価値があると判断したり、100以上の基準で判定しているようです。
 また、人手を使いませんので、費用がわずかで済むのと同時に、毎分のようにコンピュータが調べていますので、最新の情報を提供できるということにもなります。
 新聞など既存のメディアにとっては驚異です。そこで一部の新聞などは著作権の侵害だというような理由でクローリングされることを拒否していますが、一方では自社の記事の宣伝になるからと歓迎しているメディアもあり、現状では様子見という感じです。

 しかし、様々な変化が発生してくると思います。第一に、紙に印刷するニュース媒体は新聞でも一日2回発行するのが限度ですが、電子媒体では制限がありませんから、入手した情報をいち早く報道するためには、自社の電子新聞に掲載するようになると考えられます。そうしないとブログやグーグルニュースで先に報道されかねないからです。科学論文の世界は以前からそのように変化し、新しい発見や発明はまずインターネットに発表して優先権を確保することが常識になっています。
 第二に、外国から何度も批判されている記者クラブ制度の見直しが始まると思います。現在は閉鎖的な記者クラブへ役所や企業が情報を流して、持ちつ持たれつのぬるま湯関係ですが、例えば、官庁がホームページに広報すれば、それをグーグルニュースが数分後には発表してしまいますから、記者クラブを飛び出してトクダネを取材せざるを得なくなるかも知れません。
 第三に、我々のニュースの読み方が変わると思います。現在は、まず○○新聞を読んで、そこに書かれている興味深い記事があれば、それについて他の新聞はどのように書いているかというように、先に新聞などのメディアがあり、それからニュースの内容があるという順番です。
 ところが、グーグルニュースが浸透すれば、まず今日の重要なニュースは何かということをグーグルニュースで調べ、それから改めて○○新聞ではどう解説しているかを探すというように、グーグルニュースが情報のポータルサイトになり、新聞をはじめとするメディアが隷属することにもなりかねません。
 新聞は瓦版から数えれば数百年も続いた媒体ですが、ITによって牙城を脅かされていると思います。





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