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論文

 10月9日に台風22号が関東地方を直撃しましたが、これで今年は日本列島に台風が上陸するのは9回目になり、史上最多記録になっています。しかも、この台風の中心気圧は950ヘクトパスカルで、これまで正確な観測記録の残っている昭和33(1958)年の狩野川台風の955ヘクトパスカルを上回り、今年9月に日本列島を縦断した台風18号の中心気圧945ヘクトパスカルに次ぐ史上第二位の強力台風となりました。
 アメリカでもフロリダ地方に8月から9月にかけて、チャーリー、フランシス、アイバン、ジーンなど巨大なハリケーンが何度も襲来し、巨大な被害を発生させています。

 台風も自然の脅威ですが、「地震、雷、火事、親父」という諺があるように、地震のほうが突然発生するということでは台風以上の脅威だと思います。
 実際、台風による死者数は、史上最大の被害といわれる昭和34(1959)年の伊勢湾台風で5000人以上、狩野川台風で1200人程度でしたが、最近では防災体制も整えられてきた効果もあり、全国で数十人規模です。ところが、地震では大正12(1923)年の関東大震災では死者と行方不明者は14万人以上になっていますし、平成7(1995)年の阪神淡路大震災では6400人以上の方々が亡くなっておられ、台風とは比較にならない被害になっています。
 その地震も最近では回数が増えており、10月6日の深夜にも関東地方で震度5の地震が発生していますが、そのような地震が発生すると必ず「津波の心配はありません」とか「津波に注意してください」という警報がラジオ放送やテレビジョン放送を通じて出されています。それは津波の恐ろしさは地震以上だからです。

 9月に北海道の奥尻島に行ってきましたが、ここは平成5(1993)年7月12日に、マグニチュード7・8の北海道南西沖地震が発生し、その直後に津波が島を襲い、200人近くの島民が亡くなられた場所です。
 その被害を忘れないために、島の最南端に「奥尻島津波館」という記念館が作られています。簡素な造りで厳粛な雰囲気のある建物ですが、その展示を見ると、津波の被害がいかに凄まじいものかが分かります。何しろ、津波が島の崖の30メートルの高さにまで到達したということですから、想像するだけでもぞっとする規模です。
 毎年1−2回、シーカヤックを楽しみに三陸海岸に行きますが、南北に200キロメートルほどの三陸海岸の真ん中あたりに田老町という漁村があります。この町の漁港と集落の間には高さ10メートル以上もある防潮堤が延々と築かれていますが、それは二度も津波の被害を受けているからです。
 最初は明治23(1896)年に発生した明治三陸地震で津波が発生し、三陸海岸全域で2万2066人の方が亡くなったのですが、田老町では町民の73%に相当する1875人が亡くなり、昭和8(1933)年の昭和三陸地震の津波では972人が亡くなっておられます。

 なぜ津波の被害が台風よりも大きいかというと、いくつかの理由があります。
 第一は、津波が想像を絶する速度で到達することです。昭和35(1960)年に太平洋の反対側にあるチリで地震が発生しましたが、その影響による津波は22時間半で太平洋を横断して日本の海岸に到達しています。計算してみると時速800キロメートル、秒速にして220メートルですから、新幹線の4倍、飛行機並みの速度です。したがって、震源が付近の場合は一瞬で、奥尻島の場合は2−3分後に津波が到達しています。
 第二は、津波は風によって発生する波ではなく、地震によって海底が一旦沈んでから跳ね上がる力で発生するため、その威力が凄まじいということです。明治23年の明治三陸地震の津波に襲われて住民の75%に相当する2100人が亡くなった唐丹(カラニ)町で奇跡的に助かった女性がおられますが、その方は風呂に入っていたところ、風呂桶ごと山の頂上まで運ばれて助かったとか、浜辺にあった20トンの大岩が、津波で海岸から200メートル内陸の20メートルの崖上まで運ばれていたという記録があるほどです。
 第三は、津波は一度ではなく、一定の間隔で何度も来るということです。地震で海底が跳ね上がるのは最大でも5−6メートルですから波高は数メートルですし、波長は数10キロメートルにもなります。これは沖合では気付かないほどの波ですが、海岸に近付くにつれて巨大な波になるのですが、その波が数10キロメートル間隔で何度も来るのです。

 9月5日の紀伊半島・東海道沖の地震のとき、ニュースなどで見ていると、最初の津波が来た後に、漁師の方々が船の安否を確かめに漁港に来たり、地元の方々が海岸に見物に来たりしておられる様子が写っていましたが、これは絶対にしてはいけないことです。
 数10キロメートル彼方の水平線の下から、次の波が静かに現れ、急速に高くなってくるので、気が付いたときには逃げ切れないのです。
 太平洋岸では巨大地震の可能性がありますので、地震が発生したら、とにかく高台へ非難することが第一です。





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