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論文

 最近、スーパーマーケットなどに並んでいる食品に「遺伝子組換え作物使用」というような表示が付いていることを目にするようになりましたが、今日は、この「遺伝子組換え作物」について話をさせていただきたいと思います。
 遺伝子組換え作物のことを、GMOと言うことがありますが、これは Genetically Modified Organism の頭文字をとったもので、遺伝的に操作した生物という意味です。
 生物は親から子へと、その特性を子孫に伝えていきますが、その子孫に伝えるべき特性を書き込んだものが遺伝子で、生物の設計図ということができます。
 この設計図はオスとメスが交配することによって内容が変わりますし、紫外線などを浴びると遺伝子の一部が傷ついて変化するという突然変異もあり、自然のままでも変化していくのですが、1973年にアメリカのカリフォルニア大学のハーバート・ボイヤー教授とスタンフォード大学のスタンレイ・コーエン教授が人間の手で遺伝子の特定の場所を書き換える技術を発明したことから様相が一変しました。すなわち、人間が生物の特性を相当自由に変化させることが可能になったのです。

 そこでまず応用されたのが、食糧となる作物を人間にとって都合のいいように変えるということで、これが「遺伝子組換え作物」です。
 例えば、除草剤を撒いたときに、その除草剤に影響を受けないような大豆の新品種が作られていますが、その種を畑に蒔けば、除草剤を散布したときに雑草は枯れてしまいますが、大豆は生き残るということになります。
 また、自体に殺虫効果のあるトウモロコシの新品種を育成すれば、殺虫剤を散布しなくても虫がつかないということも可能になります。
 現在、大豆、トウモロコシ、菜種、ワタなどが、すでに大規模に栽培されていますが、それ以外にも、ジャガイモ、トマト、テンサイなども遺伝子組換え種が開発され、コメや小麦についても研究が進行しています。
 このような作物は除草剤や殺虫剤を撒く回数が減るとか、単位面積あたりの収量が増えるなどの利点があるので急速に普及し、栽培され始めた一九九六年には作付面積が世界全体で170万ヘクタール程度だったのですが、昨年には6770万ヘクタールと8年間で40倍にも増えました。
 ちなみに日本の農地面積は480万ヘクタールですから、その14倍にもなりますし、日本の国土面積全体の1・8倍にもなる面積です。

 だれもが気になるのは、そのような作物を原料にした食品を食べても安全かということですが、これについては明確な結論は出ていません。
 しかし、日本の製薬会社が遺伝子組換えをした細菌で製造した健康食品で、アメリカで2000人近い人が「好酸球増加筋肉痛症候群」という病気になり、38名が死亡したということが報告されているし、遺伝子組換えのジャガイモをネズミに食べさせたところ発育不全や免疫低下が起こったという研究結果も発表されていますから、完全に安全とは言えないと思います。
 日本の場合、厚生労働省が安全性審査をしていますが、それは輸入業者の申請によるもので強制力はないし、提出された書類を審査するだけで第三者機関による試験はおこなわれていないし、食品による急性中毒のみを対象として長期的慢性的な毒性については審査をしていないという杜撰な状態です。

 別の問題もあります。遺伝子組換え作物を栽培している畑の周辺に、風で飛ばされたり、昆虫が運んだりして、その地域独自の作物の遺伝子と、遺伝子組換え作物の遺伝子が混ざり、遺伝子汚染が発生することです。
 このためザンビア政府はアメリカからのトウモロコシの食糧援助を、遺伝子組換え作物ではないという保証がないからと受け入れを拒否しています。レビ・ムナワナサ大統領は「飢餓はあるが、自国民を有害な食品にさらさない」という名言を述べています。

 その背景にはさらに別の深刻な問題が控えているのです。遺伝子組換え生物は、アメリカが1988年に特許を認めて以来、すべての新品種が特許を取られており、アメリカのモンサント社、アメリカのデュポン社、スイスのシンジェンタ社、ドイツのバイエルン・クロップサイエンス社の4社で大半の特許を押さえています。
 その結果、遺伝子組換え作物を栽培し始めると、それらの企業に農業が左右されてしまうことになるのです。
 日本は農林水産省の食糧安全保障を考えない無能な農業政策のため、食糧自給率は40%という異常な状態になっているために食料輸入に依存せざるをえないのですが、国民の健康や安全よりは業界の発展を優先する厚生労働省の安全性審査のため、確実に安全かどうか分からない食料が市場に出回っているという状態です。
 実際、あまり知られないうちに、日本の食卓にも大量の遺伝子組換え食品が登場しているのです。天笠啓祐(アマガサケイスケ)さんというジャーナリストの書かれた『世界食料戦争』(緑風出版 2004)によると、加工された製品も含めて、日本で使用されているトウモロコシの40%、ナタネの50%、大豆の60%が遺伝子組換え作物ということですから、驚くべきことです。
 私たち一人一人が自分で知識を得て、身を守る必要があると思います。





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