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論文

 ゆっくりと変化しているものはなかなか気付かないのですが、日本の社会では20世紀末から21世紀初めにかけて様々な変化が発生しています。今日はそれらのなかで、逆転した社会現象を紹介したいと思います。

 第一に労働力人口が増加する社会から減少する社会に逆転しました。戦後、ベビーブームも手伝って日本の労働力人口は1955年の4194万人から順調に増加してきましたが、1998年に6793万人で頂点に到達し、それ以後は減少し、2003年には6666万人となり、5年間で127万人も減っています。
 その影響があるかも知れませんが、働く人々の価値観も大きく変わっています。内閣府の「国民生活に関する世論調査」では、「貴方は今後の生活において、貯蓄や投資をして将来に備えることに力を入れたいと思いますか、それとも現在の生活を楽しむことに力を入れたいと思いますか」というアンケート調査を毎年おこなっています。簡単に言えばイソップ物語にあるアリかキリギリスかという質問です。
 1970年にはアリ派すなわち将来に備えるという人が54%で、キリギリス派、すなわち現在を楽しむという人は28%でした。ところが、1985年頃に逆転し、2002年にはアリ派が27%、キリギリス派が56%となり、30年間で丁度反対になりました。
 同じような調査をNHKもしているのですが、人生の生きがいが仕事か余暇かという質問について、1978年には43%が仕事、29%が余暇で、仕事という人のほうが多かったのですが、10年後の1988年に31%と34%というように逆転しました。さらに10年後の1998年には26%と37%というように、余暇を生きがいとする人のほうが大幅に多数になりました。

 逆転までにはなっていませんが、余暇を追求するためにフリーターで生活する人も、この10年ほどに急速に増えています。フリーターとは主婦と学生を除く15歳から34歳までの人で、正規雇用ではない人のことですが、1990年には183万人で全体の10%でしたが、2001年には417万人と2倍以上に増え、5人に1人がフリーターになっています。

 その流れの中で、結婚しない男女も増えています。例えば25歳から29歳という20代後半について、未婚の比率を調べてみると、1960年には男が46%、女が22%でしたが、2000年には男が69%、女が54%と、40年間で未婚比率は急増しました。いずれも会社や異性に拘束されたくないという気持ちを表していると思います。
 そのような人たちは、遊んでいるのかというと、必ずしもそうではないようです。内閣府の「社会意識に関する世論調査」で、社会のために貢献したいと考えている人と考えていない人の比率は、1980年には46%と48%で、わずかですが社会貢献に関心のない人のほうが多かったのですが、1980年代の後半から急速に社会貢献をしたいという人が増え、2000年には60%の人が社会貢献したいと考えている一方、それに関心のない人は37%となり、大逆転となっています。
 同じ調査の中に「これからは、国民は国や社会に目を向けるべきか、まだ個人の生活の充実に専心すべきか」という質問については、1980年代前半では両者は同じ程度の比率でしたが、90年代に入ると、社会派は52%、個人派は28%というほどになりました。

 これを裏付けているのが家計貯蓄率、すなわち収入のうち貯金に回す金額の比率です。1955年には13・9%でしたが、毎年のように増大し、1975年には23・1%で最高になりました。ところが、それ以後、今度は急速に減少しはじめ、2002年には6・2%にまで低下してしまいました。もちろん、不景気で生活が苦しく、貯蓄に回す余裕がないということもあると思いますが、キリギリス派が増えたことも影響していると思います。
 社会の景気を反映している税収も同じような傾向で、1975年の14兆円程度から1990年には60兆円まで増大しましたが、2004年度には42兆円ま減少してしまいました。

 色々と数字を並べてきましたが、これらを総合して言えることは、20世紀から21世紀に移行する時期に、日本の社会は明治時代から続いた人口や経済が増大していく状態から増加しない社会に移行し、それとともに、国民の意識や価値観が、会社のために一生懸命働いて将来に備えるということから、家庭や余暇を重視して、充実した現在を送るということに大転換してきたのだと思います。一言でいえば、成熟社会の到来ということです。
 現在、大半の方々が夏休みでゆったりした毎日を過ごしておられるかと思いますが、それはまさに社会の大きな流れなので、自信をもって遊んでいただければと思います。





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