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論文

 7月19日から22日までの4日間、イタリアのソレントで国際捕鯨委員会(IWC)が開催され、捕鯨、すなわちクジラの捕獲について今後どのようにするかが議論されました。
 捕鯨に賛成する国と反対する国が対立して、捕鯨に反対している国々から日本は悪者のように言われたりしていますが、この国際捕鯨委員会の話題は後ほど紹介させていただくとして、まずクジラについて話をさせていただきたいと思います。

 クジラとイルカは分類学的にはクジラ目(cetaceans:シテーシアン)という同じ仲間に所属し、3〜4メートル以上のものをクジラ、それより小さいものをイルカといっている便宜的な名前なのです。そしてシャチもクジラの一種です。
 現在、79種類のクジラが知られており、最大のシロナガスクジラは長さ30メートル、体重は100トン以上ですし、最小のラプラタカワイルカは長さ1・5メートル、体重50キログラムと、大きさで20倍、重さで2000倍の開きがあます。

 クジラを捕獲するということは世界各地で古代から行われていたのですが、日本では石川県の能登半島にある真脇(マワキ)遺跡や、青森県の三内丸山(サンダイマルヤマ)遺跡からクジラやイルカの骨が大量に発見されており、縄文時代からクジラを捕獲していたと思われます。
 しかし、近代的な捕鯨が始まったのは19世紀からで、1853年に浦賀に来たペリー提督の率いるアメリカ東インド艦隊の目的のひとつはアメリカの捕鯨船のための基地を確保することであったというのは有名ですが、特に1864年にクジラに命中すると、身体の中で爆発する銛(モリ)が発明されてから活発になり、1904年にはノルウェーが南氷洋へ捕鯨船団を派遣し、1906年にイギリス、1934年に日本、1936年にドイツと競争でクジラを捕獲するようになってきました。

 捕鯨オリンピックといって、各国が競争で捕鯨をしていた時代ですが、その競争のなかで、鯨油の価格を安定させることと、減少し始めたクジラを保護することを目的として、1948年に国際捕鯨取条約が締結され、その条約を基にして国際捕鯨委員会が同じ年に設立されました。
 このIWCは初期には捕鯨に関係している14カ国が加盟して、科学的にクジラの捕獲頭数を決めていたのですが、1980年代に、どのような国でも登録して会費を支払えば自由に加盟国になることができ、しかも代表は、その国の人間でなくてもいいというように制度が変更され、1982年には一気に39カ国に増加し、現在では55カ国になっています。
 その中には、セイシェル、サンタルチア、セントヴィンセント、アンチグア・バブーダ、セントキッツ・ネヴィス、グレナダなど、捕鯨には関係のない、日本では名前の知られていない小国も多数参加し、その影響によって、1982年のIWC総会では商業捕鯨を一時停止するというモラトリアム規定が成立しました。
 その契機になったのは、1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議でアメリカが動いて「商業捕鯨の10年間停止勧告」が採択されたことです。
 その背景は色々と憶測されていますが、第一には鯨油が不要になったことがあげられます。19世紀から捕鯨をしていたアメリカやヨーロッパの国々は、鯨油を採るためだけにクジラを捕獲して、肉も皮も骨も内蔵も捨てていたのですが、石油が十分に供給されるようになって鯨油が不要になってきたので、クジラを捕らなくてもいい状況になったということもあります。
 また、グリーンピースなど環境保護団体が活発に動いて、前に紹介したような小国に入会の勧誘をしたということもありますが、IWCの本来の目的を外れて政治活動の一環として捕鯨禁止が利用されているという側面があります。
 さらに、1972年の国連人間環境会議ではアメリカがベトナム戦争で行った枯葉剤作戦が非難される気配にあったので、それから目を逸らせるために、クジラが絶滅しそうなので捕鯨を中止しようという話題を持ち出したという推測もなされています。

 日本は科学調査を行い、ミンククジラなどは70万頭以上も棲息しているので、現在、日本沿岸で年間50頭、調査のために捕獲しているミンククジラを120頭に増やすなどの提案をしていますが、現在のIWCでは捕鯨半大国が過半数なので、今回も提案は否決されました。この背景には油をとる目的でしか捕鯨をしてこなかった国々と、食料だけではなく、工芸材料などにもクジラを利用してきた国々との文化的対立がありますが、感情的な議論を止めて、科学的な議論をするべきだというのが日本の主張です。





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