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論文

 アメリカの大学教授などが中心になって、1993年から毎年2回、世界でもっとも速いコンピュータの上位500を発表しています。
 今年の6月22日に発表された最新の順位では、日本の独立行政法人・海洋研究開発機構に付属する地球シミュレータ・センターが所有する「地球シミュレータ」という名前のコンピュータが1位となり、世界でもっとも高速のコンピュータと認定されました。平成14年6月に1位に認定されて以来、5期連続で首位を維持しているという偉業です。
 このコンピュータが稼動し始めたのは平成14年2月ですが、日本ではあまり騒ぎにはなりませんでした。ところが、アメリカではコンピュートニク(computenik)ショックという言葉が作られ、大騒動になりました。
 1957年10月にソビエト連邦が世界最初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げて、アメリカにスプートニク・ショックが起きたときと同様の非常事態だというわけです。
 2位はアメリカのローレンス・リバモア国立研究所のコンピュータですが、能力は地球シミュレータの2分の1程度の能力ですから、アメリカがショックを受けたのも十分に分かると思います。
 アメリカは戦略技術で首位の座を失ったということで、あわててASCI(戦略コンピュータ開発構想)を策定して、当面300億円程度の研究開発費を投入して追跡を始めています。

 コンピュータの速度を示す単位の一つに「フロップス(flops)」という単位があります。小数点の付いた数字を1秒間に1回、足し算や掛け算する能力を1フロップスというわけですが、地球シミュレータの能力は35・68テラフロップスと評価されています。テラというのは1兆という意味ですから、1秒間に35兆6800億回の加減乗除ができる能力ということになります。
 仮に人間が1秒間に1回の掛け算ができるとして、113万年、つまり飲まず食わず眠らずに計算をして113万年かかる計算を1秒で終えてしまうというと、如何にすごい能力かが分かると思います。

 このような能力の利用目的は多数ありますが、例えばアメリカでは新しい原子爆弾を開発するときに、これまでのように地下で実験して性能を確認するのではなく、このような高速コンピュータを使って計算だけで性能を確認することなどに使っていますが、日本では「地球シミュレータ」すなわち地球を真似するという名前からも分かるように、地球規模の気象予測とか、日本列島の地殻変動の予測とか、海洋の循環の予測などに使われています。

 私が初めてコンピュータを使ったのは丁度40年前のことですが、隔世の感があります。
 世界で最初のコンピュータといわれているエニアック(ENIAC)が開発されたのが1946年ですが、この真空管でできたコンピュータは1秒間に5000回の足し算ができたといわれていますが、地球シミュレータの70億分の1の能力です。
 1976年には、世界最初のスーパーコンピュータといわれるクレイ1(CRAY1)というコンピュータが登場しましたが、これは1秒間に10億回の足し算ができました。しかし、それでも地球シミュレータの3万分の1の能力ですから、すさまじい進歩です。

 どこまで速くなるのかと興味が湧きますが、アメリカが日本を追い抜くためにIBMに発注したASCIパープルというコンピュータが100テラフロップスで、地球シミュレータの3倍ですが、さらに2010年を目指して開発構想が検討されているコンピュータは1テラフロップス、すなわち1秒間に1000兆回の計算ができということですから、8年で30倍になり、当分はまだまだ速くなっていくと予測されています。

 日本でも東京大学が2008年に2テラフロップス、地球シミュレータの6倍の能力をもつ「グレープDR」というコンピュータを開発していますから、これを基準に計算すると6年で60倍ということになります。

 人間は不要になるかと心配になりますが、確かに計算だけではスーパーコンピュータの足元にも及びません。しかし人間の脳は連想能力があったり、創造能力があったりして、これを機械のコンピュータと比較すると、100テラフロップスに匹敵するといわれています。
 ところが、その3分の1の能力の地球シミュレータは幅50メートル、奥行75メートル、高さ17メートルの3階建ての建物に収まっていますし、重さは200トンもあります。
 しかし、人間の脳は1000cc、1リットルのペットボトル1本の容積で、地球シミュレータの6400万分の1ですし、重さも1500グラム程度ですから、13万分の1にもなりません。しかも持ち運び自由です。
 人間の脳は、それほど優秀な性能ですから、出来が悪いと悲観することはなく、自信をもって使ってください。





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