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論文

 先週、広島と岩手でツキノワグマが人間を襲うという事件が発生しましたが、私も先週、3日間で知床半島をカヌーで回ったときに、10頭以上のヒグマを見かけました。
 ほとんどはカヌーに乗って海上から眺めていたので怖いことはまったくなく、日本の陸上に棲んでいる最大の動物を間近に眺めることができ感動しました。
 また、知床半島では2晩は海岸にテントを張って泊まったのですが、これもヒグマについての正確な知識をもち、してはいけないことをしなければ問題はありません。

 しかし、人間がヒグマに襲われた事例がないわけではありません。明治時代になって、突然多数の人々が内地から北海道に入植した時代には、ヒグマについての経験や知識のない人々がヒグマの巣窟に飛び込んだような状態であったために襲われたことが多く、大正4年には苫前村で3日間もヒグマに襲われて6人が死ぬという悲惨な事件もあり、明治時代から昭和の初期までに、北海道では100人以上の人々がヒグマに襲われて死亡しています。
 そこで北海道では1960年代から「春グマ駆除」といって、冬眠から目覚めた直後のヒグマを全域で射殺してきました。その結果、毎年300頭から600頭のヒグマが駆除されてしまい、逆に絶滅が危惧される地域もでてきたので、1990年には中止され現在に至っています。
 そのようにヒグマの頭数が急速に減少したこともあり、1981年から2000年までの20年間で、北海道でヒグマに襲われて死亡したのは5名で、そのうち2名はハンターが逆襲された結果です。しかも、ヒグマがもっとも多数生息している知床半島では死亡事故はゼロです。
 この同じ期間に、北海道ではスズメバチに刺されて死んだ人が37名にもなっていますから、ヒグマはそれほど危険な動物ではないということで。

 しかし、この夏に観光旅行で北海道に行かれる方も多いと思いますので、今日はヒグマから身を守る人方法について話をさせていただこうと思います。
 よく死んだ振りをすると助かるといいますが、ヒグマが間近に迫ってきて逃げられないと思ったときには、身体を丸めて腹部を守り、両手を頭の後ろで組んで頭部を守ってジッとしている方法がいいようですが、これは最悪の事態になったときで、そのような事態にならないことを心掛ける必要があります。
 そこでヒグマの性質を知ることが重要です。ヒグマは獰猛な肉食動物と思われていますが、食べ物の中心は植物や昆虫という雑食動物です。
 もちろん、海岸に流れ着いたクジラやアザラシなどの死体や、春先に餓死したエゾシカなども食べるし、秋になれば川に上ってくるサケも食べますが、完全な肉食動物ではありません。
 ヒグマがわざわざ人間を襲うことはなく、聴覚や嗅覚が発達しているので、遠くから人間を察知して避けてしまいます。
 もうひとつの知っておくべき重要な性質は、ヒグマは大変に執着深い性質で、自分でツバをつけた食べ物を奪われると、どこまでも追いかけてくるということです。

 このような性質を理解していれば、ヒグマに襲われない方法は自ずと明らかになります。
 第一は突然出会わないようにするということで、そのためには鈴を鳴らしたり、携帯ラジオを鳴らすなど、音をたてながら歩くといいということになります。したがって、夜間や霧の深いときには突然出会う機会が増えるので、歩かないのが賢明です。
 シカの死体を見かけたり、動物の腐った臭いがする場所には近づかないことも大切です。特に「土饅頭」といって、エゾシカの死体を土で覆って隠してある場所に近づくと自分の食べ物を盗られると思って襲ってきますから、絶対に近づかないことです。
 もっともしてはいけないことは残飯を捨てたり、エサを与えることです。例えば、缶ジュースの空き缶を捨てると、そこに残っているジュースの味を覚えて、人家のほうに出没するようになり、結局、可哀想なことに駆除せざるをえなくなるのです。

 1998年に、2歳になるメスのヒグマが道路の脇で好物のアリを舐めていたところに通りかかった自動車の中からソーセージを投げ与えた無責任な人が居ました。
 その味を覚えたヒグマはソーセージを求めて人間の居るところに近づくようになったので、何十回と威嚇して山に追い返したのですが戻らないので、最後には射殺せざるをえなくなってしまったのです。
 一人の知識のない人が無責任にソーセージを投げ与えたことが、1頭のヒグマの命を奪うことになったのです。

 この夏、北海道に行かれる方は、もともとヒグマの棲家にお邪魔するのだという気持ちで登山をしたりキャンプをしないと、結局、どちらにも不幸な結果になるということを考えて行動していただきたいと思います。





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