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論文

 先週は長崎県の伊王島という離島に行っていました。そこで今日は離島に関係する話をさせていただきたいと思います。
 伊王島は伊豆の「伊」に王様の「王」という字ですが長崎港の大波止桟橋から高速船で20分もかからない便利な場所にある島です。
 かつては石炭を採掘していたために、面積2・26平方キロメートルしかない島に7500人以上の人々が生活していたのですが、昭和47年に炭鉱が閉山され、現在では人口も1000人を切るほどに寂れてしまいました。
 そこで池下守町長が、平成元年に第三セクターで「ルネサンス長崎伊王島」というホテルとテニスコートを中心とした複合施設を作り、観光戦略に切り替えました。そしてホテルだけではなく、町役場や消防署や学校などの建物も白い壁と赤い瓦にして、船で近づくとスペインの町を眺めるような風景が出現しました。

 この風景も人気があったのですが、大ヒットしたのが格安バイキングです。長崎から伊王島まで高速船の料金が往復で1200円するのですが、その料金も含めて3000円の切符を購入すると、島のホテルで飲み放題・食べ放題の夕食を楽しむことができるようにしたところ、長崎市の夜の宴会場になり、年間40万人以上の観光客が訪れるほどになりました。
 私も何度か行ったのですが、生ビールやワインが飲み放題で、料理も海産物を中心に豊富で、なぜ船賃を差し引いた1800円で可能かと思うほどの豪華なバイキング料理でした。

 ところが栄枯盛衰は世の習いで、バブル経済の崩壊とともに客足が遠のき、ついに平成14年に営業を中止する事態になってしまいました。しかし昨年、過疎債を発行して施設を改造し、民間の専門業者が運営するかたちで営業を再開することに成功しました。
 そして「天は自ら助くる者を助く」の言葉のように、試しにと温泉を掘ってみたら、何と温度が44・7度で、1分間に770リットルも噴出し、今年3月からホテルの横に立派な温泉が営業を開始しました。
 私も入浴してきましたが、目の前の海を眺めながらの露天風呂は最高の気分で、しかもお湯の量が多いので循環ではなく、流し放しなのでレジオネラ菌の心配もない塩味の素晴らしい温泉でした。
 その温泉効果で現在、日帰りの入浴客だけで毎日300人から400人、連休中には800人以上が来るようになり、多分、今年は再び年間40万人以上の観光客になると予想されています。

 ここまでは前振りで、今日の本題は日本人の温泉好きについてです。
 現在、日本には2万7000箇所以上の温泉が湧き出しており、利用されている温泉だけで3000箇所以上あるといわれています。そして温泉を訪れる観光客は年間1億3700万人ですから、一人が一年に一回以上は温泉に入っている計算になります。
 日本人が温泉を好きだというアンケート調査はいくつもあり、海外在住の日本人に日本に帰ったらまずしたいことを質問すると、一番が温泉にゆっくり入るという結果になっていますが、さらに面白い資料があります。
 竹下内閣のときに、市町村に一律1億円を配り、自由に使用していいという「ふるさと創生基金」が話題になりましたが、3000以上ある全国の自治体が何に使ったかを調べてみると、1位が温泉を掘るというもので、252の自治体が温泉を掘りました。約8%です。1箇所も温泉を掘らなかったのは千葉、沖縄、大阪だけでしたから、温泉人気が分かると思います。

 おかげで私も全国各地にカヌーに行くと大抵の場所で立派な温泉に入ることができ、竹下総理に手を合わせていますが、なぜ日本人が温泉好きかということが不思議です。
 いくつか理由があると思います。まず、日本に多数の温泉があるということが基礎ですが、普通には日本の高温多湿の気候の影響とか、日本人が清潔好きだからと説明されています、娯楽のなかった農村の農閑期の数少ない娯楽だったという説もあります。
 しかし、私は日本人が温泉に入って生まれ変わるという願望を持っているからではないかと思います。私は毎年、山形県の出羽三山で修験道の修行をしていますが、その最後には温泉から湧き出ている熱湯に足を浸して修行を終えるのですが、これは生まれ変わって産湯を使うことだと説明されています。
 そういう意味で、日本人は嫌なことを忘れて何度も生まれ変わるために温泉に行くのではないかということです。





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