TOPページへ論文ページへ
論文

 3月20日の立春から数えて88日目が八十八夜といわれますが、今年は先週末の5月1日でした。
 「夏も近づく八十八夜・・・」という「茶摘み」の唱歌でも有名ですが、この時期から全国的に霜が降りなくなり、丁度、春から夏へ移行する時期です。そして全国各地で苗代に種籾を蒔く頃でもあります。
 前置きが長くなりましたが、今年は国際連合が定めた「国際コメ年(International Year of Rice)」です。世界の人口の半分近い30億人の人々の主食である「コメ」を世界規模で見直そうということで2002年12月に国連総会で決定されました。
 そこで今日は「コメ」について話をさせていただきたいと思います。

 世界の穀物生産は年間20億トン程度ですが、そのうち28%の5億9300万トンが「コメ」、28%の5億8300万トンが「小麦」、29%の6億900万トンが「トウモロコシ」で、「コメ」は世界の三大穀物のひとつになっています。
 しかし「コメ」は他の二つに比べて非常に優れた作物です
 第一に、コメは生産効率がいいということです。『新約聖書』の「ヨハネによる福音書」の12章に「一粒の小麦が地に落ちて死ななければ、それはただの一粒のままであるが、もし死ねば多くの実を結ぶようになる」と書いてありますが、その多くの実は400から500粒です。
 ところが一粒のコメが水に落ちて死ぬと1000粒になりますから、2倍の生産力があることになります。
 実際、世界の平均では、ヘクタールあたりコメは3・6トンの収穫がありますが、小麦は2・5トンで70%程度でしかありません。
 第二に、満腹感がある割には、カロリーが低く、茶碗一杯の御飯は175キロカロリーですが、食パン1枚は200キロカロリーです。お亡くなりになった鈴木その子さんの「やせたい人は食べなさい」は、御飯を食べればいいということです。
 第三は、気象の変化にも強い作物ということです。コメを育成する水田は保温効果があり、寒い夏には「深水灌漑」と言って水田に張る水を深くすると被害を防ぐことができます。

 しかし、最大の稲作の利点は連作が可能ということで、世界で数千年に渡って連作をしているのは水田による稲作だけです。小麦などは3年くらいで連作障害が現れますから、畑を変えなければいけないのですが、稲作は同じ田で毎年続けて耕作ができます。
 それは水を張っているために、水面下の土地が酸素不足になり、微生物が死滅してしまうし、水を入れ替えるときに不要な化学物質を洗い流してくれるからです。

 ところが日本人の心とでもいうべきコメの最大の問題は日本人がコメを食べなくなっているということです。
 数字でご紹介しますと。1960年には日本人は一人一年に126キログラムのコメを食べていたのですが、2003年には68キログラムと、ほとんど半減してしまいました。
 その影響もあり、日本の水田面積は1960年には350万ヘクタールあったのですが、現在では270万ヘクタールと減っており、しかも休耕田が70万ヘクタールもありますから、実際の作付面積は200万ヘクタールで、この45年間で6割以下になってしまったのです。
 これは戦後、自国で余っている小麦を処理したかったアメリカが「小麦を食べると頭が柔軟になるが、コメを食べると硬直する」とか「毎日、コメを食べるとガンになる」などと宣伝したことが影響していますが、そのアメリカはカーター大統領時代に食生活の見直しを検討しました。
 アメリカの女性が皮下脂肪吸引のために支払っている費用が年間700億円にもなるということですから、栄養の取りすぎという問題は重大な課題でした。
 その結論は日本のコメと魚を中心とする食生活が理想であるというもので、それが寿司ブームを巻き起こしたのですから皮肉なものです。

 日本は穀物の自給率29%という異常な国ですが、それでも日本国内の穀物生産の92%はコメですし、現在のところコメだけは100%自給できています。総理府のアンケート調査結果によると、「高くても国産の食べ物を食べたい」という国民は83・4%になっていますから、国際コメ年を契機にして、我々もコメの素晴らしさを見直すべきだと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.