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論文

 昨年7月に、来年3月に開港する予定の中部国際空港の工事で、当初は7680億円と予定されていた工事費が6500億円になり、1200億円と16%も削減されというニュースが発表されました。
 これまでの大半の公共事業は当初の予定より予算が大幅に増えるということが普通でした。例えば話題になった諫早湾干拓事業では、当初は1350億円でしたが、2370億円と1・8倍に増大するなど増加する事例には事欠かない状態ですから、大幅に減るということはきわめて珍しい例だというわけです。
 これはトヨタ自動車という民間企業の重役から中部国際空港株式会社に移った平野社長がトヨタ自動車で行っている手法を適用して削減したもので、民間企業のビジネスとしては当然ということでした。

 このように、公共事業の建設、運営、管理などを民間企業に任せて安価に実施しようという考え方をPFI(Private Finance Initiative)、日本語では民間企業等活用事業といいます。
 最初はイギリスのサッチャー政権が始めた方法で、鉄道、病院、学校の建設や、都市再開発などで実施されてきました。日本では平成11(1999)年7月にPFI法という法律が制定され、政府も内閣府に民間資金等活用推進室を設けて推進しています。
 実際に、地方自治体では文化施設、観光施設、公営住宅、社会福祉施設、廃棄物処理施設などに導入しようと検討しており、今年の3月の時点で、全国で134件が具体的に計画されています。

 PFIによって、どのような効果が期待されているかというと、第一に公共事業が安価に実施できるということで、これは中部国際空港で証明されました。
 第二は社会の需要に柔軟に対応できるということですが、これもなるほどという例は多数あります。北海道の苫小牧東部大規模工業基地は勇払原野を干拓して1万1000ヘクタールの工業用地を造成しましたが、売却できた用地は15%しかありません。農道空港も全国に数箇所建設されましたが、9日に1回しか飛行機が飛ばないため、1回の飛行あたり税金が135万円もかかるなど、柔軟に対応できなかったための失敗例はいくらでもあります。
 第三に民間企業に新しいビジネスチャンスをもたらすことなどが挙げられています。
 三番目はともかく、1番目と2番目は、本来は中央政府や地方自治体が行っても安価に柔軟に行わなければいけないわけですから、やや疑問のある効果ですが、それは置いておくとして、世界規模でPFIが流行しています。

 それでは公共事業は何でもPFIで行えばいいのかという問題があります。
 世界全体では、水道事業のPFIがもっとも普及していますし、日本でも松山市や三次市で検討されていますが、各地で問題が指摘されています。
 2人のカナダの市民活動をしている人が書いた『水戦争の世紀』(集英社新書)という本が昨年出版されていますが、それによると、例えば、アルゼンチンのブエノスアイレスの水道事業の運営はスエズとビベンディという世界最大の水道事業をしている会社に委託されたが、民営化になった途端に25%の値上げ、さらに2ヵ月後には29%も値上げされているそうです。また、フランスでは民営化により水道料金は平均して150%の値上げになっているそうです。
 その結果、中南米などでは貧しい人々は水道料金が払えないので、なけなしの金でミネラルウォーターを買って飲んでいるという笑えない話まで登場しています。

 このような背景には、世界市場で活動している巨大企業が20世紀の石油の次に、21世紀は淡水をもっとも重要な商品にしようとしているという噂もあります。これは重大な問題です。石油は高くなれば買わずに何とか済ますことは可能です。ガソリンが買えなくて自動車が使えなければ自転車で移動することは可能ですし、灯油が買えなければ薪で暖房することも可能です。
 しかし、水は1日たりとも無しで生存することはできない物質です。このようなものまで商品として、安ければいいという原則だけで民間にすることは再検討するべきだと思います。
 イギリスでは7年間で水道料金は106%値上がりしたが、PFIを請け負っている企業の利益は692%増大したという数字もあります。





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