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論文

 この2ヶ月間、南米大陸の最南端にあるケープホーンをカヌーで回ってきましたが、実際、どのような状況であったかをお話させていただきたいと思います。
 今回、1月25日に世界で最南端にある人口2000人弱のプエルト・ウィリアムスという町からカヌーで出発し、2月13日にケープホーンを回ってきました。

 ケープホーンというと「ああ、アフリカ大陸の最南端ですか?」といわれる方がときどき居られますが、それは「ケープ・オブ・グッドホープ、喜望峰」で、ケープホーンは南アメリカ大陸の最南端ですので、お間違えのないようにお願いします。
 今回は20日間カヌーを漕いでいたのですが、ときどきいただく質問は「その間、ずっとカヌーに乗ったままですか?」というものです。
 ヨットの場合は乗ったままですが、カヌーは全長5メートル程度の小さな船で、トイレもありませんし、食卓もありませんから、寝泊りはできません。そこで夕方になると上陸してテントを張って寝泊りすることになります。
 そういう意味で、今回は50日間の旅行でしたが、カヌーの部分だけでは19泊20日の旅行でした。

 そこでテントを張ってキャンプをするために上陸する場所ですが、いくつか条件があります。
 第一に断崖絶壁はもちろんですが、波が打ち寄せる岩場では上陸できませんので、砂浜を探さなければいけません。ところが、このケープホーンの一帯の島は大半が断崖絶壁なので、上陸できる場所を探すのが大変でした。地図は20万分の1の海図しかないので、地図では探せません。そこで海上から砂浜を探すことになります。大波が押し寄せている場所では上陸が大変ですから、入り江などで波が静かな場所という面倒な条件が重なります。
 しかも、砂浜だけでは十分ではなくて、水が流れている場所で、しかも焚き木となる流木も打ち上げられている必要があります。
 カヌーには前と後ろに荷物を積み込むことのできるハッチがありますが、そこにはテント、寝袋、炊事道具、食料などを詰め込んでいますので、水や燃料を積む余地がなく、すべて現地調達です。
 ケープホーンの一帯は雨がよく降る地域ですから、たいていの島では水が流れていますが、すべて茶色の水でした。これは汚れているわけではなく、湿地帯を通ってくるので、そのような色になっているようです。
 この水を焚き火で沸かして飲むのですが、御飯を炊くと茶飯のようになりますし、紅茶などは葉が必要ないほど濃い色になります。

 食事はどうするかということですが、すべて無人島でレストランもありませんので自炊ということになります。材料は5日分程度をカヌーに積んで、無くなると伴走している船から補給してもらいます。
 魚を釣ったり、仕掛けでカニを捕ったりした場合もありますが、貝類は中毒になる危険性があるので、食べてはいけないということで捕りませんでした。
 そして現地からの放送のときもご紹介させていただきましたが、今回の4人のメンバーのうち2人は調理師の資格をもっているので、毎回、美味しい料理でしたが、時間の関係もあり、すべて一汁一菜というより一品料理でした。
 料理を食べれば、その結果の排泄ということになりますが、これは皆さんがキャンプでされるように、星空や絶景を眺めながらの水洗便所です。しかも環境を壊さないためにトイレットペーパーをなるべく使わないようにして、木の葉や浜辺の石を使うようにしていました。

 風呂はどうするのかということもご興味があると思いますが、20日間どころか、その前後も含めて3週間以上は風呂にも入らず、しかも、洗濯ができるほどの水も流れていないし、空気が湿っていて洗濯物が乾かないので、1週間程度は着替えなしという生活でした。
 しかも、食事では精力をつけるために毎回ニンニクを大量に使っていましたから、匂いは相当なものだったと思いますが、4人とも同じ状態ですから気になりませんでした。しかし、夜になってテントの中で寝袋に入るために下着だけになると、流石に風呂が懐かしいという状態でした。

 そのような不便な生活ですが、やはり、このような生活を3週間もしていると、人間というものも大自然のなかでは、たいした力もない存在だという気持ちになり、人間が謙虚になるというのが最大の成果ではなかったかと思います。





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