TOPページへ論文ページへ
論文

 私が南米大陸の最南端にカヌーに行くということを森本さんからご紹介いただいておりますが、明後日に出発することになりました。時々は現地からも放送させていただきますが、2月末まで私は休みにさせていただきますし、場合によっては永遠に休みということになるかもしれません。

 これまでもカヌーのことは何度も話をさせていただいておりましたが、今日はカヌーとは一体どういうものかについて話をさせていただきたいと思います。
 川や海や湖を人力で行き来する乗り物にはボートとカヌーがありますが、両者には二つ重要な違いがあります。第一はボートではオール、カヌーではパドルという船を漕ぐための道具がありますが、ボートのオールは船に固定されているのに、カヌーのパドルは人が手に持っているという違いです。
 第二が重要な違いですが、ボートは背中のほうに進むのですが、カヌーは前のほうに進むということです。カヌーは前向きの手段なのです。
 これは何でもないことのようですが、16世紀になってヨーロッパの人々がカナダに狩猟や貿易に出かけたときに、現地のイヌイット民族などが、前向きにカヌーを漕いでいるので感心したという記録がありますから、実は大発明だったのです。

 カヌーという言葉はカリブ諸島で使用されていた「カノア(Canoa)」という言葉が語源で「船首と船尾が尖った櫂で漕ぐ舟」という意味ですが、世界各地で同じような舟は使われており、「カヤック(Kayak)」「ウミアック(Umiak)」「バイダルカ(Baidarka)」など、地域や時代によって様々な名前があります。しかし、現在、一般に使われているカヌーは「カナディアン」と「カヤック」の2種類に大別されます。
 それはどのようなパドルで漕ぐかによるのですが、「カナディアン」はシングルパドルといって片側だけにブレードという水を掻く部分があるパドルで漕ぐカヌー、「カヤック」はダブルパドルといって両側にブレードがあるパドルで漕ぐカヌーというふうに分類します。
 また、楽しむ場所が川か海かによって、それぞれに適したカヌーがあり、川では「カナディアン」ももちろん使えますが、リバーカヤックといって長さ2メートル程度の「リバーカヤック」という短い舟を使います。川の瀬などには岩があるので、瞬間的に避ける必要があり、自由に回転できるためです。そのために初心者が漕ぐとクルクル回って直進できないのですが、慣れると自由自在の曲芸もでき、面白いものです。
 海では目的地に向って長距離を漕ぐ場合が多いので、「シーカヤック」という5〜6メートルの長さのある舟を使います。そして潮流や強風にも流されないように、舵(ラダー)が付いているのが普通です。

 今回のケープホーンではシーカヤックを使うわけですが、日本から舟を運ぶので「フォールディング・カヤック」という組立て式のものを使います。
 現在、カヌーは国民体育大会やオリンピックの競技種目になっていますが、これには3種類あります。第一はスキーでいえば回転競技に相当する「スラローム」で、川の上から吊り下げられたポールの間をくぐって行くものです。第二はスキーの滑降競技に相当する「ワイルドウォーター」で、急流を一気に下ってくるものです。第三は、やはりスキーでいえば距離レースに相当する「フラットウォーター」で、湖など流れのない水面で1000メートルとか2000メートルを競争するものです。
 お聞きの皆さんで、国民体育大会やオリンピックに出場したいと考えておられる方がおられましたら、カヌーをお勧めします。それは競技をする人の数が非常に少ないのでチャンスが多いからです。特にフラットウォーターはひたすらゴールに向って漕ぐだけですから、それほど面白い競技ではないので競技人口がきわめて限られており、若い人が始めれば確実に国民体育大会は出場できますし、オリンピックも十分に可能だと思います。

 しかし、競技も結構ですが、やはりカヌーの醍醐味は川や海を水面すれすれに感じることができますし、転覆すれば本当に身近に感じられ、道路や海岸からは眺めることのできない素晴らしい景色も堪能できることにあると思います。
 自然環境を保全することが日本にとっても世界にとっても重要な時代になりますが、カヌーで自然を身近に感じることが、その第一歩になると思いますので、多くの方が楽しんでいただければと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.