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論文

 1年の最後なので、明るく締めたいところですが、現在の日本社会の深刻な問題を提起し、その解決に向けた方策を考えてみたいと思います。
 長崎での幼児殺害事件が象徴するように、近年、多数の凶悪犯罪が発生し、刑法犯の発生は7年連続で増加し、2002年は369万件になりました。1970年代の130万件と比較すると3倍近くになっています。その一方で、検挙率は急速に低下し、1970年代には60%であったものが、2001年には20%を割るという事態になっています。
 その原因は複合したものだと思いますが、私は、社会のなかにコミュニティが希薄になったせいではないかと思います。

 コミュニティという言葉は、もともとは生活を一体にする社会とか、信条が同一である社会を意味する言葉ですが、以前は「地域社会」とか「地縁社会」と翻訳されていました。日本で最初の国勢調査が行われた1920年には、国民の半分以上が農業を仕事としており、その時代には、農業をしている土地が生活においても中心の場所でしたから、土地が社会の基礎でした。
 ところが、現在のように、農業が5%、工業が30%程度で、大半の人々が会社員として働くようになると、住んでいる土地の周囲の人々とは疎遠になり、むしろ会社の人々とのほうが密接な関係になる時代が到来し、コミュニティは「社縁社会」というほうが適切な時代になりした。
 多数の皆さんがそうだと思いますが、隣近所の家庭の様子はあまり知らないけれども、会社の同僚の家庭の事情は、細かく知っているのが実際だと思います。
 この「社縁」が社会の中心になる一方、地縁社会が消滅していき、それが犯罪の発生の増大と、検挙の低下を招いているのではないかと思います。

 ある地域で生活している人々が、お互いに顔見知りであったり、挨拶したりする関係であれば、不審な人がうろついていれば分かりますし、犯罪が発生しても目撃者がいる可能性が高いのですが、社縁が中心の社会では、地域のことは無関心の人が多くて、犯罪も発生しやすいというわけです。
 そこで、最近、コミュニティを復活させようという動向が次第に浮上してきました。その一例が「コミレス」だと思います。これはコミュニティ・レストランの略語ですが、ここ数年で流行しはじめた言葉です。
 具体例をご紹介したほうが分かりやすいと思いますが、三重県の四日市市の中心にある本町通商店街に、「こらぼ亭」というレストランがあります。ここはワンデイ・シェフといって毎日シェフが変わるレストランです。
 背景をご説明します。本町通商店街は四日市の中心の商店街ですが、全国共通の現象で空き店舗が目立ち始め、閑散としてきました。そこで、地域の人たちが空き店舗を借りてレストランを開業したのが「こらぼ亭」なのです。
 ここには地域の主婦やOLなどが50人近くシェフとして登録しており、毎日交替で料理をしています。食材は自分で商店から購入してきたり、家庭菜園で栽培している野菜を持参したりして料理するのですが、売上の30%をレストランを維持する費用として支払い、70%が自分の収入になるという仕組です。
 お客の多くがシェフの家族や友人であったり、張り切って材料を奮発するので個人的には赤字になったりということで、商売として成立しているかは微妙ですが、昼食時に出される地元の材料だけで作った「地産地消べんとう」は20食限定ですが、毎日完売という人気です。夜にはシェフの友人が来てギターを弾いてサービスしたりということもあり、和気藹々という雰囲気ですし、何よりも閑散としていた商店街に活気が戻ったという効果が大きいと思います。

 同じような例は、岩手県の北上山地の平庭高原にある葛巻町で、農家の女性が中心になって運営しえいる「森のそば屋」です。国道281号線沿いにある木造の建物で、76歳の女性を筆頭に17名の女性が交代で運営している店です。私も立寄ったことがありますが、美味しいソバでした。農家の女性たちは、お客さんに喜んでもらえるだけではなく、初めて手にした自分の自由になるお金を手にして、孫に小遣いをあげ、堂々と美容院にも行けるようになり、仲間とおしゃべりができるので、当番ではないときも店に来たり、ここで働くために長生きしようという女性もいて、山村に活気をもたらしています。

 このように、地域の人々が自分の地域の問題を解決して、地域を元気にするために行う仕事を「コミュニティ・ビジネス」といいますが、もともとはイギリスのサッチャー政権時代に始まったもので、日本でも2001年5月に出された経済財政諮問会議の「骨太方針」にも、コミュニティ・ビジネスで10万人の雇用を創出すると書かれており、注目されています。
 もちろん地域経済の復活ということでも重要ですが、地縁社会を取り戻すということでも、コミュニティ・ビジネスは注目すべき活動であり、暗い日本を地域から明るくしていく活動になると思います。





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