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論文

 先週末の7月20日に、衣料品や装身具の高級ブランドであるイギリスのバーバリーが42億円の商品を焼却処分したと発表し、話題になるとともに批判もされています。
 バーバリーの売上は年間3900億円、利益は600億円ですから、売上の約1%強、利益の7%を処分したことになり、決して小さな数字ではありません。
 時計のカルティエ、筆記具のモンブラン、装身具のダンヒルなどを傘下に持つスイスの企業リシュモンも過去2年で630億円の腕時計を処分していますから、1年平均では315億円でバーバリーの7倍以上です。
 実は日本でも同じことが行われており、1年間で新品のまま廃棄される洋服が10億着、中古で廃棄される衣料品が30億着になると推定されています。
 高級ブランドの商品ではない場合はブランド名の付いたタグを外して定価の20%弱で販売されるものもありますが、有名ブランド商品の場合は、製造会社が処理業者にすべて破砕して焼却するように指示し、その証拠写真まで要求するそうです。

 素人感覚では、なぜ「もったいない」ことをするのかと不思議ですが、理由は日本の事例が暗示しているように、余った商品が横流しされて安く売られ、ブランド価値が落ちることを防ぐためです。
 それならば生産量を消費に見合う程度に下げればいいと思いますが、株主の要求に応えるために、売れないとわかっていても生産を拡大する必要があるという事情も影響しています。

 この廃棄ということで必ず槍玉に挙るのが食料です。
 世界では現在、1年に13億トンの食料が廃棄されていますが、世界の食料生産は45億トンですから約30%が捨てられている計算になります。
 日本でも同様で年間9000万トンの食料が供給されていますが、30%の2800万トンが廃棄されています。
 その一方で、世界の飢餓人口は減る方向にはありますが、現在でも人口全体の11%の約8億人で、そのうち推定で毎年約1500万人が餓死しています。
 そのため国連の世界食糧計画という機関が食料援助をしていますが、年間300万トンから400万トン程度ですから、日本で廃棄される食料の15%もあれば飢餓人口がなくなるという計算になります。

 廃棄される食料のうち、食べることができる状態にある食品を捨ててしまう部分を「食品ロス」と言いますが、これは先進国ほど比率が高く日本では23%程度になっています。
 そこで、この食品ロスを減らそうという活動が世界各国で始まっています。
 アメリカでは外食した時の食べ残しを持ち帰る「ドギーバック」が普及していますし、デンマークのコペンハーゲンには賞味期限切れや包装に傷や汚れがある食品を販売する専門のスーパーマーケットが登場しています。
 さらに進んでいるのがオーストラリアで、昨年、シドニーにスーパーマーケットから賞味期限切れ前に処分されてしまう食品を譲り受け、それらを無料で提供するスーパーマーケットが出現しました。
 10名ほどの店員はボランティア、家賃や光熱費は建物の所有者が無償で提供しており、お客には強制ではない寄付をお願いし、1ヶ月で170万円ほどが集まっているそうです。
 もっとも強力な制度を導入しているのがフランスで、2016年から「食品廃棄禁止法」という法律が施行され、売場面積400平方メートル以上のスーパーマーケットでは売れ残った食品や賞味期限切れの食品を廃棄することを禁止し、違反すると廃棄量に合わせて罰金が徴収されます。
 それではどうするかというと、そのような食品はフードバンクと言われるボランティア団体に寄付し、そこから貧困層などに配給する仕組みになっています。
 日本では罰金制度はありませんが、2002年に日本最初のフードバンク「セカンド・ハーベスト・ジャパン」が設立され、以後、少しずつ増加し、2013年から日本フードバンク連盟が発足しています。

 この仕組を衣料品に応用した「繊維製品リサイクル・モデル事業」も始まっています。
 衣料品製造業の「ワールド」は2011年から店頭で、不要になった衣料品の回収事業を行い、それを販売して育英基金にしています。
 ドイツでは中古衣料品の70%がリユースされていますが、日本では20%弱でしかなく、これから増加していくと予想されます。

 世界の人口は現在の76億人から98億人になると予測されていますが、そうなると現在のように生産した食料の30%を捨てるとか、新品の衣料品や装飾品を大量に廃棄するという行動は資源問題や環境問題から不可能になると思います。
 そのためには、これまでの消費構造を変えていく必要があります。
 すでに始まっているのが、食料などでは、今日、ご紹介したように廃棄を減らしていく活動ですが、もう一つは耐久消費財を長く使う生活様式に変更することです。
 日本の自動車は毎年の販売台数と廃棄台数が50万台くらいの差で販売台数が多く、使用されている自動車台数は年毎に増加していますが、平均使用年数は1980年代の8年程度から最近では12年以上になっています。
 家庭電化製品も1990年代には買替え期間が冷蔵庫は10年くらいでしたが最近では13年、エアコンも9年から14年、洗濯機も8年から10年とすべて長くなっています。
 これまではファッション分野でも工業製品でも次々とモデルチェンジをして派手な広告で消費者の気持ちを煽り、大量生産、大量消費、大量廃棄という構造で産業は発展してきました。
 しかし、資源や環境の有限性が切迫してきた現在、この構造を変化させても成立する産業構造や消費構造を目指す時代だと思いますが、そのためには消費する立場の意識改革も必要だと思います。





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