TOPページへ論文ページへ
論文

 環境問題に関係した「3R」という言葉が話題になっています。これは2000年6月に成立した「循環型社会形成推進基本法」のなかで提案されたもので、リデュース、リユース、リサイクルという英語の頭文字を採って3Rというわけです。
 リデュースは廃棄物の排出を減らすこと、リユースは廃棄された製品の部品などを再利用することで、例えばインスタントカメラは現像のためにフィルムを回収した製品からストロボや歯車などを回収して再利用しています。リサイクルは製品を原料にもどして、その原料を再利用することで、現在では「3R」は廃棄物問題の合言葉になりつつあります。今日は、そのなかのリサイクルについて話をしたいと思います。

 最近、街中でもペットボトルの飲物を持ち歩いている人を良く見かけるようになりました。このペットボトルは1977年に醤油の容器として使われたのが最初ですが、軽くて便利だということで急速に増加し、1995年には14万トン、2000年には36万トン、2002年には41万トンと生産が増大してきました。
 しかし、これは石油を原料としていますから、リサイクルして資源に変換して再利用しようということで、リサイクル活動が熱心に進められ、ペットボトルリサイクル推進協議会の調査によると、1995年には1・8%の回収率でしたが、2000年には31・8%になり、2002年にはついに50%を突破して53・4%になりました。
 ちなみに、アメリカでの回収率は20%、ヨーロッパでの回収率は25%ですから、日本はペットボトルの回収では先進国です。
 日本がペットボトル回収先進国になった背景には、1995年に「容器包装リサイクル法」という法律が公布され、ガラス容器とペットボトルは1997年から、プラスチック製容器と紙製容器については2000年から、それらの容器を製造したり販売したりする事業者に回収が義務づけられたことです。
 この回収されたペットボトルは粉々に粉砕して溶かし、ペレットといわれる原料にして、約51%が再利用され、マットやモップや衣服などに使用されています。さらに最近では技術が進歩し、ペレットを再度化学分解して、高純度の原料にし、もう一度ペットボトルに再生するまでになりつつあります。

 それ以外にもリサイクルされている製品は多く、2001年の数字では、ビールビンは99%、牛乳ビンは97%、一升ビンは90%、スチール缶が83%、アルミ缶が79%、古紙が59%となっています。
 リサイクルする対象をさらに拡大するために、2001年には「家庭電化製品リサイクル法」が施行されて、テレビジョン受像機、電気冷蔵庫、電気洗濯機、エアコンを回収して資源に転換することが製造企業に義務付けられ、来年からは自動車も同様にリサイクルが義務付けられます。

 このように日本はリサイクルの先進国ですが、それには江戸時代がリサイクルの先進時代だったという背景があるのではないかと思います。
 石川英輔さんの『大江戸リサイクル事情』という面白い本がありますが、そこから引用させていただきますと、第一に、江戸時代は石油や石炭や天然ガスなどの化石燃料が使用されていない時代でしたから、例えば照明は再生可能な資源である植物から採取した灯油や蝋燭を使っていました。衣服も化学繊維はない時代でしたから木綿や麻などの再生可能な資源が原料でした。住宅にしても、セメントはありませんでしたから、木や紙や土という再生可能な材料で建設していました。そもそも使用していた資源の大半が再生可能なものだったのです。
 第二に、資源の回収が社会の仕組になっており、古着の回収も古紙の回収も存在していたし、蝋燭は貴重品だったので、照明に使用した蝋を回収する専門の職業さえ存在していたそうです。これらはすべてお金を払って回収していました。
 現代の都会で消滅してしまった巨大なリサイクル・システムは下肥、すなわち糞尿の回収です。石川さんの計算によると、江戸の住人の年間の肥料製造能力は肥桶10杯分ほどで600リットル程度ですが、これも農家が引き取って畑で肥料にしていたわけです。それは現在のように下水使用量を払って回収してもらうのではなく、農家のほうが下肥で生産した野菜と交換していたそうですから、理想的な循環型社会が実現していたことになります。
 同様に家庭のカマドでできた灰もリサイクルされており、大きな商店などでは灰小屋という物置を作り、カマスに入れた灰を保存して買手に売っていたそうです。
 井原西鶴の『好色一代男』のモデルになった人物といわれている灰屋紹由(ハイヤジョウユウ)と紹益(ショウエキ)の親子は、室町時代の末期に、灰を買い集めて藍染めの職人に売るという商売を思いついて、江戸時代には巨万の富を蓄積した商人で、俳句や茶道をたしなんだ風流人ですが、灰でさえ重要な資源でした。
 第三は、最近、話題になる「地産地消」、地域で生産したものを地域で消費するという仕組で社会が維持されており、流通の無駄が少ない社会でした。そして何より、モノがふんだんにない時代でしたから、人々が大切にモノを使っていたことが重要だと思います。

 最近は江戸ブームですが、その時代の文化や制度を見習うのも結構ですが、ぜひ日本が現在追い求めている循環型社会の手本としての江戸時代を見習ったらどうかと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.