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論文

 先週、アメリカの航空宇宙局(NASA)が、南極の棚氷が崩壊して巨大な氷山が海に流れ出す状態を撮影した衛星写真を発表しました。
 われわれは氷山というと、タイタニック号が衝突した氷山や南極探検の記録映画などで見る小山程度の氷山を思いだしますが、今回、流れ出した氷山は長さが200キロメートル、幅が32キロメートルですから、半端ではありません。ちなみに200キロメートルというと東京から静岡の先までの距離ですし、32キロメートルというと横浜辺りまでです。また、面積は大分県とほぼ同じですから大変な規模だということが分かると思います。
 しかし、ここ数年間には、同様な巨大な棚氷が海に流れ出しています。1998年には7100平方キロメートルと岡山県規模の氷山、2002には3250平方キロメートルと鳥取県規模の氷山が流れ出しており、現在、150平方キロメートル以上の面積の氷山が10個以上、南氷洋を漂流していると観測されています。

 これらは、どのような仕組で流れ出すかということを説明します。南極は日本の面積の35倍もある巨大な大陸ですが、その97%は氷に覆われています。その厚さは平均1900メートルですが、厚いところでは3500メートルもあります。この氷が一年に10メートル程度、海の方向に移動しており、それが端から海に転落して氷山になるという仕組です。

 これは昔から続いている活動ですが、最近、急速に氷山の規模が拡大してきました。その理由は地球温暖化の影響により南極の気温が急速に上昇しているからだということです。
 過去100年で世界全体の気温は0・5度上昇したと推定されていますが、南極は過去50年で2・5℃も上昇しており、そのために棚氷の移動速度が速まっているわけです。
 そうなると、だれもが心配するのは海が上昇して、低い土地が水没してしまうということです。
 南極大陸に乗っている氷がすべて融けてしまえば、海面の上昇は70メートルにもなるそうですから、世界の海岸沿いにある大半の都市は水没し、スピルバーグ監督の映画『A.I.』にあったようにニューヨークのマンハッタンの高層建築も大半が海中に水没ということになります。

 70メートルも海面が上昇すれば、地球崩壊で手の打ちようがありませんが、1メートル上昇したらどうなるかについて考えてみても、大変なことになります。
 実は南極の氷が融けるより前に、海面が上昇する原因があります。地球の表面の70%を占めている海の水が膨張することによるものです。
 地球温暖化を世界中の学者が集まって検討しているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という組織がありますが、そこでは、今後100年で最悪の場合、気温が5・8度上昇し、その結果、海面は88センチメートル上昇するという推定を発表しています。
 しかし、台風などの低気圧のときには、さらに海面は上昇しますから、1メートルは覚悟しなければなりません。
 そうなると、ツバルとかモルジブなどサンゴ礁でできた島の上にある国は水没してしまうことになりますが、日本も安閑とした状態ではなくなります。

 海面が1メートル上昇したら、どれだけの面積が水没するかという計算をした学者が居られますが、その結果、平均海面のときで680平方キロメートル、満潮の時には2340平方キロメートル、高潮になれば8900平方キロメートルが水没するという結果になっています。これはほぼ鹿児島県全体の面積になります。
 そこで生活している人口はそれぞれ180万人、410万人、1540万人で、日本の人口の12%の人々が土地や家屋を失いということになり、その資産の金額は380兆円と推定されています。日本の1年間の国民所得が370兆円ですから、まるまる1年分の所得が消滅してしまう計算です。

 そこで、国土交通省が、それを防ぐために全国の海岸にある防波堤や防潮堤を嵩上げするための費用を試算していますが、3000キロメートルの海岸を守るために防波堤などを補強するのに11兆5000億円、港湾の対策に7兆9000億円が必要で、合計すると20兆円近い費用がかかるということになります。
 日本の政府と地方自治体の建設予算の合計が現在25兆円程度ですから、その8割を堤防や港湾の補強に充てなければ国土は守れないということになります。

 地球温暖化を防ぐのはもう手遅れだという意見がある一方、地球温暖化は嘘だという本を書いた学者もいます。しかし、それを防ぐ努力はエネルギーの節約や環境の保全に役立ちますから、万が一、地球温暖化が嘘だったとしても、努力したことは無駄にはなりませんから、一人一人が、このような情報を確認して、足元から環境問題を考えた行動をすることだと思います。





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