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論文

 昨年もサンマが豊漁でしたが、今年はそれ以上の豊漁で、現時点で昨年の3割以上の水揚げです。食べる立場からはありがたいことで、東京のスーパーマーケットでも1匹100円以下で買えるのですが、獲っている漁師さんは安くなりすぎて大変です。
 北海道の産地では1キロ50円から60円ですから1匹にすると10円にもならない値段で取引されており、漁船の油代にもならず、獲れば獲るほど赤字になるという状態です。
 そこで現在では、値段を維持するために、北海道の根室の漁港では、水揚げをした漁船は翌日を自主休業するとか、宮城県の気仙沼の漁港でも、水揚げした漁船は岸壁で24時間出漁しないという調整までしている状態です。
 ところが、すべてが順調というわけにはいかないのが世の中で、サンマと同様に大衆魚といわれるマイワシが、ここ数年まったく獲れなくなっています。その結果、マイワシは東京の市場ではキロ500円程度になり、小売店では1500円にもなります。これでは1匹150円にもなり、イワシが高級魚ということになりかねません。ちなみに、これは10年ほど前の豊漁のときに10倍以上の値段です。

 サンマとイワシとサバは三大・大衆魚といわれますが、あちら立てればこちらが立たずの状態で、例えば1955年から62年はサンマの全盛期で、58年にはサンマが39万トン獲れたのに、マイワシはわずか0・9万トン、サバは3・1万トンでした。
 ところが63年から75年はサバの全盛期になり、1971年の漁獲量は、サンマが5・4万トンと7分の1に激減したのに、サバは57・8万トンと20倍近くも増えたのです。そのときマイワシは依然として0・2万トンと鳴かず飛ばずのままでした。
 さらに75年から92年まではマイワシが主役になり、1987年の漁獲量ではマイワシが193万トンと一気に200倍以上も獲れたのに、サバは16・8万トンと4分の1近くに落ち、サンマも7・4万トンと低迷したままでした。
 92年以後はサンマが主役で、マイワシは87年を頂点に現在は10万トンも獲れないという状態になり、先ほど説明したように高級魚になりつつあるのです。

 要約すれば、1950年代後半はサンマが主役、60年代はサバが主役、70年代後半からはマイワシが主役、そして、90年中頃からサンマが主役と15年程度の間隔で主役が交代しているということになります。
 これは日本だけの現象ではなく、他の地域でも発生しており、例えば、日本と並ぶ漁業地域であるヨーロッパの北海でも、似たようなことが発生しています。ここではサンマの代わりにニシンが登場しますが、60年代前半はニシン、60年代後半がサバ、70年代にはイワシと交代しています。

 このような現象を専門用語では「魚種交替」、すなわち獲れる魚の主役が交代するというように言いますが、結論を言えば原因は正確には分からないということです。
 漁業関係者の生死にかかわることですから、研究者が熱心に研究していますし、1983年には国連の組織である世界食糧農業機構(FAO)が国際会議を開催して議論しているほどですが、色々な説明があって、絶対にそうだという理由はまだ発見されていないのです。
 簡単明瞭な説明は乱獲によるものだということです。日本のニシンやハタハタは、そのようですが、サンマやイワシは一定年数で復活してきますから、必ずしも当たらない。
 エルニーニョ現象が主因だとする説もあります。これは毎年、南半球の夏にあたる1月から3月にエルニーニョといわれる南向きの暖流が流れ海水が高温になるため、プランクトンが減少し、アンチョビ(カタクチイワシ)などが減るという説明ですが、そうであれば、ほとんどの魚が減るはずなのに、一部の魚だけが減るので、やはり完全な説明ではない。
 別の説は、同じプランクトンを餌にしている二種の魚のうち、人間がどちらかを大量に獲ってしまうと、残った魚にとって餌が豊富になるので交替で繁殖するという説明です。これももっともらしいのですが、なぜ特定の魚だけが影響を受けるのかが上手く説明できないという弱点があります。

 そこで登場したのが、日本の水産庁の研究所におられて『イワシと逢えなくなる日』などのベストセラーを書かれた河井智康さんの説です。それは海中に魚食性プランクトンという、魚の稚魚を餌にするプラントンがいて、Aという魚が産卵した海域に、その魚食性プランクトンが大量発生すると、その稚魚を大量に食べてしまう。そうするとAという魚は減るが、Bという魚が繁殖した魚食性プランクトンを食べて繁殖するという結果になるということです。
 この説によると栄枯盛衰は15年周期で、将来を予測すると、現在のサンマの最盛期はやがて終わり、2010年代はサバ、25年頃からイワシ、サンマが復活するのは40年代になるということです。したがって、ここ数年にサンマを食べておかないと、次に安くなるのは30年後ですから、ぜひ、今晩でも食べてください。





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