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論文

 一昨年5月に金正日(キムジョンイル)の長男の金正男(キムジョンナム)が偽造パスポートで入国しようとして成田空港で逮捕された事件がありましたし、昨年、愛知県警が逮捕した中国人窃盗団のうち半数以上が偽造パスポートで入国していたことが判明しました。
 このようにパスポートの偽造が増加しているので、その対策が世界各国で検討されています。特にアメリカは一昨年9月11日の事件のテロリストのかなりが偽造パスポートで入国しいたということで、昨年、国境警備強化ビザ入国改正法を成立させ、今年の10月1日からは機械読み取り可能なパスポート(Machine Readable Passport)でない場合には、ビザの取得を義務付け、さらに来年10月26日以後は、バイオメトリクス機能を備えたパスポートでないと、ビザの相互免除の対象としないということにしました。
 そこで日本の外務省も世界の動向に対応するということで、来年から実験的に国家公務員が公務で海外に行くときの公用旅券にバイオメトリクスを応用する方針を8月に発表しました。
 機械読み取り可能なパスポートというのは情報が磁気記録や光学記録で記録してあり、読み取り機械にかざすと情報が読み取れる方式で、現在の日本で発行しているパスポートはそうなっているので問題はありませんが、バイオメトリクス機能を備えたということは、あまり聞き慣れない言葉だと思います。
 そこで今日はバイオメトリクスについて話をしたいと思います。
 バイオというのは「生物の」とか「生体の」という意味で、メトリクスは測定するという意味ですから、合わせて生物測定学ということですが、現在では、人間一人一人に固有の特徴を計測して、本人かどうかを判定する技術の意味に使われています。

 古くから使われている代表的な例は「指紋」です。これはほぼ一人一人が違う指紋を持っているということで、本人かどうかを判定するのに有効ですが、オウム真理教の事件のときに手術をして指紋を消してしまったり、最近ではゴムで指紋を複製するという技術も出現していますから、さらに新しい技術が研究されています。
 今週、日立製作所が機械に指先を当てると、一瞬にして本人かどうかを識別する技術を発表しましたが、これは指に赤外線を当てて、指の内側を走っている静脈の模様を読み取るという技術です。このような技術は存在していたのですが、一万分の1秒程度の時間で99.9%の正確さで読み取るということで注目されています。
 SF映画によく登場する目の虹彩(アイリス)の模様を読み取るという技術も現実のものになっており、数万円で装置を販売しています。虹彩の模様は2歳以後になるとあまり変化をせず、しかも非常に複雑で一人一人違うので、それを読み取れば本人かどうか識別できるということで、沖電気や松下電器産業が製品として発表しています。
 顔も一人一人違うので、バイオメトリクスの対象になり、外務省が来年から実験的に導入するパスポートには両目の距離や目と鼻との位置関係などの情報をパスポートに埋め込まれたICカードに記録する予定です。このような情報は整形手術をしても変わらないということもありますし、抵抗感もないということで使用されるようです。

 このような技術はパスポート以外にも利用され、大きな分野は制限区域への入室許可です。例えば、会社で機密情報を処理している部屋などは特定の人しか入室できないようにしていますし、空港などで一般の人の立入りを禁止している区画もあります。
 現在はドアの横にあるテンキーから数字を何桁か入力すると空きますが、横から何気なく見ていれば分かってしまいます。またICカードなどは誰かが紛失すると、そのカードを無効にするために面倒な処理も必要になります。
 そこで入室を許可されている人の指の静脈の模様を登録したり、虹彩の模様を登録しておけば、指をかざしたり、機械を覗き込むだけでOKということになります。
 この技術は端末装置から機密情報へのアクセスにも有効です。現在はキーボードからパスワードを入力するのが主流ですが、このパスワードは厄介なもので、生年月日とか名前などですと、すぐ見破られてしまいますから、意味のない英数字の組合せを使い、しかも厳重な場合は1週間とか数日ごとにパスワードを変えるということにしています。
 そうすると覚えるのが面倒だということで、端末装置の横にメモを貼っておいたりして、パスワードの意味がなくなってしまうということも会社などではよくあることです。
 そこで、端末装置に虹彩の模様を判定する装置を付けておけば、パスワードを覚えているという苦労をしなくてもいいということになります。すでに指紋で本人を識別するコンピュータは発売されており、電源を入れたら装置に指を押付けるだけで利用できるようになっています。
 携帯電話は落とすと他人に悪用されたりしますが、本人を確認しないと利用できないようにしておけば安心ということにもなります。

 広範な応用が可能なため、この分野の産業規模は急速に拡大すると予想されており、ハードウェアだけでも、日本国内で現在年間50億円程度ですが、2010年には450億円程度と期待されています。





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