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論文

 先週後半に知床半島にカヌーをしに行ったのですが、そこで現在検討されている世界遺産の問題について話をしたいと思います。
 最初に世界遺産とはどのようなものかを説明したいと思います。1972年に国際連合機関のひとつであるユネスコが「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」(通称:世界遺産条約)というものを決定し、人類が後世まで維持し保全していかなければならない文化遺産や自然環境を認定するという仕組を作りました。
 世界の176カ国が締結し、日本も遅ればせながら1992年に125番目の締結国になりました。
 世界遺産は建物や遺跡などを対象とする「文化遺産」と、地形や生物や景観などを対象とする「自然遺産」、そして両者を含んでいる「複合遺産」があり、現在、世界には582の文化遺産、149の自然遺産、23の複合遺産の合計754の世界遺産があります。
 日本には現在のところ、日光、京都、奈良、姫路城、厳島神社、原爆ドームなど9箇所の文化遺産と、白神山地と屋久島の2箇所の自然遺産が登録されています。

 ところが最近、世界遺産にして地域の名前を高めたいとか、あわよくば観光客が増えて経済効果を期待したいという地域が増え、日本は地域遺産ブームになっています。
 その結果、自然遺産に登録したいという地域だけでも、北海道の大雪山、日高山脈、サロベツ原野、東北地方の早池峰山、陸中海岸、中部地方では富士山、北アルプス、南アルプス、九州では阿蘇山、霧島山など19箇所が立候補し、6月26日に開催された環境省の「世界自然遺産候補地に関する検討会」で知床半島、小笠原諸島、琉球諸島の3地域が最終候補になり、来年2月までに1つに絞られることになっています。
 文化遺産については、今後5年から10年で登録を申請しようとする暫定リストが作成されており、岩手県の平泉、神奈川県の鎌倉、滋賀県の彦根城、奈良・和歌山・三重の3県にまたがる紀伊山地の霊場と参詣道、島根県の石見銀山が掲載されています。
 世界全体ではスペインが35箇所、フランスが28箇所、中国が27箇所、ドイツが24箇所、インドが22箇所などと多数登録していますから、日本が登録するのはおかしくはないのですが、ややブームという印象です。

 今回の知床半島ですが、国立公園でもあり、自然環境保護地域の対象にもなっていますから候補の資格は十分にあるし、世界でもっとも低緯度まで流氷が流れてくる地域という特徴もあります。
 さらに1972年から斜里町が「しれとこ100平方メートル運動」を開始して、97年までの20年間で約5万人の方々から5億円以上の基金を集め、かつて開拓された土地を購入して、原生の森に復元する活動もしています。
 しかし、その一方で、知床半島は先端の知床岬まで道路はありませんが、海岸沿いに何箇所も番屋が建設されていて、漁業も活発ですし、モーターボートなどで釣りに行く人や、私のようにカヌーで周回する人などもいて、人跡未踏の土地というわけでもありません。
 そのために、世界遺産に登録されることによって「海産物などの特産品がブランド化されれば地域経済にとって利点である」という意見がある一方、漁業関係者は「ただでさえ安価な輸入品の影響で海産物の価格が下がっているのに、規制で漁獲量が減れば生活が脅かされる」と憂慮しています。
 また、カヌーなどで周回している途中で上陸することを禁止するかどうかも議論になっており、カヌー仲間では今年あたりに行っておかないと、もう知床半島へカヌーで行くことはできないという悲観論もあります。

 私は以下のようにしたらいいと提案しています。第一に、知床半島は携帯電話も通じないし、絶壁の連続で簡単に上陸できる場所も限られているし、ヒグマも多数生息しているために、普通の人々にとって安全な場所ではありません。
 そこで、資格試験に合格したガイドが必ず同伴するという条件で、上陸を可能にする。そうすれば違法な焚火をしたり、食べ物を残したままにしてヒグマが人間に近寄るということも防げるし、さらには地域に雇用も創り出すことになります。
 第二に、番屋を宿泊施設に転用することです。最近では高速船が利用されるようになって、番屋に長期間、漁師が滞在するということも減りつつありますし、一方で番屋では糞尿垂れ流しの便所などで海を汚している面もあります。また、知床半島の海岸に上陸してみると、流木だけではなく、ロープや浮きなどの漁具が散乱していて、環境汚染の原因にもなっています。
 毎年、斜里や羅臼の人たちが清掃に出掛けて大量のゴミを片付けていますが、このままではゴミ問題で富士山が世界自然遺産の候補から落選しているように、知床半島も最終審査で落選の可能性もなきにしもあらずです。
 そこで、番屋の施設を改良して宿泊できるようにして、漁業関係者が運営すれば、新規の経済活動にもなるし、環境への意識も高まると思います。
 この日本でも有数の原生の自然から完全に人間を閉め出して保全するのではなくて、その自然の雄大さに多くの人々が感動しながら維持していくことを期待しています。





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