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論文

 昭和54年から昭和58年にかけて『週刊朝日』が「値段の明治・大正・昭和風俗史」という連載をしたことがありました。
 218種類のモノやサービスの値段の変遷を調べたもので、大好評で単行本にもなりましたし、文庫本にもなりました。そこには昭和62(1987)年までの値段が調べてありますが、その後、どのように値上がりしたかを調べて今回調べてみました。
 戦後は値段が一気に変化したので、ほぼ安定した昭和35(1960)年を基準にして、現在、その程度まで値上がりしたかを調べてみると、なかなか興味深いことが分かります。

 最初に値上がりの少ないものから紹介してみますと、ほとんど値上がりしていないのがニワトリの卵で、43年前の昭和35年に1個15円程度でしたが、現在でも同じか、スーパーマーケットの特売などでは、それ以下です。ニワトリの卵が物価の優等生と言われる所以です。
 牛乳も物価の優等生で、昭和35年頃には1合ビン(180cc)にいれた牛乳を毎朝家まで配達していましたが、これが14円でしたので、1リットルに換算すると約80円になります。現在でも1リットルの紙パックは170円程度で売っていますから、約2倍の値上がりです。
 2倍から3倍の値上がりの商品は、それ以外にも色々とありまして、ゴルフのボールは、昭和35年には300円でしたが、現在は高級なものでも600円程度ですし、特価では40年前と同じ程度ですから、もともと贅沢品として高価であったということもありますが、せいぜい2倍にしか値上がりしていません。
 ピアノも贅沢品で、縦型ピアノは昭和35年には18万円していました。現在では50万円から70万円で、3倍から4倍です。自動車も2倍から3倍です。工業製品といわれるものはほとんどが数倍という範囲です。

 それでは情報製品はどうかということですが、雑誌の代表として『中央公論』を調べてみると、昭和35年には1冊150円でしたが、現在800円になって、5・3倍、平凡社の『大百科事典』は全32巻で6万4000円でしたが、現在は全35巻で21万4000円となり4・2倍です。
 新聞は390円から3950円でほぼ10倍、NHKのテレビジョン受信料は300円から現在は衛星放送と両方で3635円になり約12倍です。
 モノよりは情報のほうが値上がりしていることが分かります。
 マスメディアではない、もう少し手間のかかるエンタテイメント系は、大相撲の升席が一人あたりに換算すると43年前は1000円でしたが、現在は1万1300円で11・3倍、歌舞伎座の桟敷席は1100円から1万6000円になって14・5倍になっています。

 さらに値上がりしている情報商品はあるかと調べてみると、何と国立大学の受験料が33倍も値上がりしています。昭和35年には1000円でしたが、現在ではセンター入試と二次試験と両方を受験する必要があり、合計で3万3000円ですから33倍も値上がりしています。
 それ以上の値上がりをしたのが国立大学の授業料です。私が学生のときは1年間で9000円でしたが、現在では52万800円になっています。昭和38年に9000円から1万2000円になるときには、反対運動が起こったことがありましたが、現在では58倍にも上がってしまいました。
 私は退官しましたので、気楽に申上げますが、国立大学の先生は毎年同じ授業をしているのであれば、百科事典程度の価値しかないので、学生から不満が発生しますから、せめて歌舞伎や大相撲以上の価値を学生に与える義務があるのです。

 それでは究極の値上がりは何かということです。土地だと思われるかも知れませんが、銀座4丁目の角は当時1坪300万円でしたが、バブル経済最盛期でも取引価格は6000万円で20倍程度の値上がりで、現在は4000万円以下になり13倍程度ですから歌舞伎並みの値上がりです。
 『週刊朝日』の連載にあった218種類のなかで、最大の値上がりをしたものはお葬式式です。これはピンからキリまであるので比較が難しいのですが、3段飾りの標準的な値段が昭和35年には1万5000円でしたが、現在では100万円程度になっており、66倍に値上がりしています。

 このように見てくると、自動化によって人手をかけないで、役に立つ機能を与えるモノは値上がりせず、人手をかけて心の豊かさを与えるサービスが大幅に値上がりしているということが明瞭で、これからのビジネスの狙い目のヒントになるのではないかと思います。





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