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論文

 2週間ほど前、高知県の清流・仁淀川にカヌーに行ってきました。四国山脈から流れ出して太平洋へ注ぐまで124キロメートルの大河です。日本で清流というと同じ高知県を流れる四万十川が有名で、仁淀川はその陰に隠れていますが、実は四万十川よりもはるかに清流なのです。
 カワセミは最近は都会でも見かけますが、ヤマセミはよほどの清流でなければ生息していません。四万十川ではヤマセミを見かけたことがありませんが、仁淀川の上流にはヤマセミが生息しており、清流を証明していると思います。

 7月8日に国土交通省が、全国にある109の一級河川について水質調査をした結果を発表しました。タマちゃんで一躍有名になった鶴見川が水質最下位の河川となり、話題を呼んだ調査結果です。
 その結果によると、四本の川が同率1位で、北海道の羊蹄山の山麓を流れる尻別川、渡島半島の中央にある後志利別川、やはり北海道の日高山脈から十勝平野にながれている札内川、三重県の伊勢神宮の付近を流れる宮川で、今回、カヌーを楽しんできた仁淀川は全国で7位につけている清流です。ちなみに日本最後の清流といわれる四万十川は72位です。

 川の水質調査には色々な方法があります。簡単なものでは水素イオン濃度(pH)といわれる方法で、水が酸性かアルカリ性かを調べる方法です。また溶存酸素量(DO)といって、水中に溶けている酸素の量を調べる方法もあります。このような化学的な方法以外に、川の中には、カゲロウとかカワゲラとかトビケラなど200種類近い水棲昆虫の幼虫が生息していますが、そのうち何種類が居るかを調べる方法もあります。
 国土交通省が河川ランキングに使用しているのは生物化学的酸素要求量(BOD:Biochemical Oxygen Demand)といわれる数値です。家庭排水や工場排水が原因で水中に溶けている有機物を川の中の水中微生物が浄化していますが、そのときに必要とする酸素の量を測定するものです。酸素の量が少ないほど水がきれいで、多いほど水が汚れているということになりますが、1リットルの川の水の浄化に必要な水をミリグラムで示す数字が使われています。
 今回の調査では同率一位になった四本の川の数字が0・5、仁淀川が0・6、四万十川は1・0です。参考までに鶴見川は5・5ですから、BODだけで言えば最もきれいな川の10倍以上汚れているということになります。

 生徒は夏休みになって、色々な自由研究をする時間があると思いますが、自分たちの生活している地域にある川について、調査をしてみるといいのではないかと思います。
 簡単なものは水棲昆虫の調査で、川の中の石を裏返すと様々な虫がついていますので、それを採集して図鑑で調べ、何種類の虫がいるかを数えます。一般に種類が多いほど川はきれいだということになります。
 それ以外は多少の道具や薬品が必要ですが、水質調査のためのキットも発売されていますので、それを購入すれば、水素イオン濃度(pH)や化学的酸素必要量(COD)やなども簡単に測定することができます。
 これまで生物化学的酸素消費量(BOD)は簡単には測定できませんでしたが、最近、簡便な方法で調査ができるようになりました。カタログを調べてみると一式1万7000円程度で測定キットが販売されていますから、子供のお小遣いでというわけにはいかないと思いますが、学校のクラブ活動などで調査したらいいと思います。

 また、今年は7月20日に実施されてしまいましたが、吉野川などを管理している国土交通省徳島河川国道事務所では、測定キットを提供して、住民が自分の周辺の川の水質を測定する「吉野川水質一斉調査」を行っていますので、そのような行事に参加するのも方法だと思います。
 このような活動は夏休みの宿題のためだけではなく、重要な意味があると思います。1997年に河川法が大改正されて、河川の改修や維持に住民の意見を反映させるという方向転換が行われました。それまでは一級河川は国が管理し、二級河川は都道府県が管理するということで、住民は蚊帳の外だったのですが、方向転換したわけです。
 しかし、参加して意見を言うためには、川の実態を知る必要があります。最初に紹介した国土交通省の水質調査は109の水系の1094地点で毎月測定した結果ですが、二級河川は含まれていませんし、BODの測定が中心で、手間のかかる水棲昆虫の調査などはしていません。
 そこで、子供たちと一緒に地域の人々が様々な測定をすれば、どのようなときに川が汚れるかとか、どのような場所から汚水が流入しているかを細かく知ることができ、川をきれいに維持する知識を得ることにもなるし、そのような体験をすれば、釣のときに空き缶を川に投げ捨てたり、自動車の窓からタバコの吸殻を川に捨てたりということも減ると思います。

 人類にとって21世紀の最大の課題は環境問題だといわれますが、これは専門家が研究するだけでは解決できない科学の分野で、多数の人々が自分の周囲の環境を調査することが重要ですし、その解決も政府や企業が努力するだけでは不可能で、一人一人の国民が自分でできることを実行することが必要です。





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