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論文

 6月30日に法科大学院の設置認可申請が締切られ、70以上の大学が申請を提出し、来年4月から開校の予定です。大学で法学を学んだ学生は2年間、一般の学生社会人は3年間の勉強をすると、新しい司法試験を受験して裁判官、検察官、弁護士になれるという仕組です。現在の申請状況では約6000人の入学定員になりそうです。
 日本は弁護士が不足しており、裁判が長期化する傾向にあり、アメリカでは3ヶ月で決着が付く裁判が日本では10年もかかるといわれ、その不足を補うのは重要なことだと思います。
 アメリカでは毎年5万7000人の法曹関係者が誕生しており、ドイツも9800人、イギリスも4900人、フランスも2400人ですが、日本の現状は1000人程度ですから、人口当たりにすると少ないのは事実です。
 しかし、問題がないわけではなく、アメリカの制度を輸入したものであり、日本の社会に適合しているかという問題や、授業料が年間200万円程度で、3年間では600万円にもなり、費用がかかるという問題があります。
 しかし、私が懸念するのは1960年代に有名な「パーキンソンの法則」というものが発表され、その中に「仕事は就業者の数だけできる」という法則があることです。

 その代表がアメリカの弁護士で、アメリカには2002年3月末で96万8430人の弁護士がいますが、これは人口290人に1人で、単独の職業では軍人の170万人に次いで多い職業です。ところが日本では1万8850人で6740人に1人です。その結果、アメリカの年間の訴訟費用は8000億ドル、ほぼ100兆円にもなるといわれています。これはアメリカの国防費用の3倍という異常な金額です。そのように多数の弁護士がいると、パーキンソンの法則で仕事が次々に作り出されて、我々の眼から見ると異常なことが発生します。

 1992年2月にニューメキシコ州のアルバカーキのマクドナルドのドライブスルーで、79歳の女性がコーヒーを買い、太ももの間にコーヒーカップをはさんで蓋を取ろうとしたところ、カップが倒れて太ももにコーヒーがかかり三度の火傷をし。治療費が1万ドルかかりました。
 日本人であれば自分が不注意でと自分を責めると思いますが、アメリカでは熱すぎるコーヒーを出した無責任なマクドナルドが悪いということになり、286万ドル(3億5000万円)の支払い命令が出されました。最終的には64万ドル(8000万円)になったのですが、コーヒー一杯が8000万円になったというわけです。
 アメリカで泥酔状態の人がホンダのオートバイを高速で運転して、曲がり角で急カーブを切ったところ、スタンドが出たままであったので、引っかかって転倒し、大怪我をしました。これも日本人であれば、酔払い運転がばれることを怖れて隠すと思いますが、訴訟になり、自動的にスタンドが引っ込まないオートバイを販売している会社が悪いということで、24億円の賠償を命ぜられました。
 テネシー州からルイジアナ州に向けて許容量の5倍の血中アルコール濃度でセスナ機を操縦していた人が、燃料切れで墜落しました。国家輸送安全委員会の調査結果では、操縦していた人が燃料バルブを閉め忘れていたと認定されたが、自動的に閉まらない燃料バルブに欠陥があると訴訟を起こし、4年間の裁判の結果、25万ドル(3000万円)の賠償がセスナ社に命ぜられました。

 小型飛行機製造会社は、このような訴訟が余りにも多いために倒産したり、嫌気がさして撤退したりした結果、29社もあった会社は9社にまで減少してしまいました。
 また医者も次々と訴えられるために保険に入るのですが、その保険金支払いだけで病院が破産するという事例が続出し、総合病院では訴訟がもっとも多い産婦人科を廃止してしまうところが続出し、フロリダ州では産婦人科の無医村さえ出現しています。
 これらの裁判は弁護士が活躍しているわけですが、本末転倒のことさえ発生しています。1980年、アメリカに環境汚染を引き起こした企業が環境を修復するための費用を積み立てるスーパーファンドという制度ができ、これまでに140億ドル(1兆7000億円)が支払われましたが、そのうちの88%は訴訟費用となってしまい、12%の17億ドル(2000億円)だけが本来の目的に使用されたということです。

 近代社会が誕生させた3つの自立した職業として、建築家、医師、弁護士があげられますが、日本の戦後の歴史を辿ってみると、列島改造ブームのときに大学に建築学科や土木工学科が大増設されました。その結果、大量の技術者が誕生するので、土木事業が減らせないし、日本の人口が急増していく過程で無医村問題が発生し、全国の大学に医学部が創設され、医師の水準が低下したといわれています。
 今回、法曹関係の人間が少ないということで、一気に6倍も学生を増やせば、そのために訴訟が必要となり、アメリカのような社会になりかないと危惧しています。





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