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論文

 最近、新しいエネルギー技術として燃料電池が話題になっていますので、この技術を話題にしてみたいと思います。
 小学校の理科の授業で水の電気分解という実験があったのを覚えておられると思います。水の中に電極を差し込んで電池から直流の電気を送ると、プラス側に酸素が発生し、マイナス側に水素が発生するという実験です。
 水はH2O、すなわち水素と酸素が結合した物質ですが、電気を通すことによって水素と酸素に分かれるということです。
 これを逆に反応させるのが燃料電池です。水素ガスと酸素ガスを別々の容器に入れておいて、一緒にすると、両方のガスが水になると同時に電気を発生するという仕組です。

 この燃料電池の原理は、すでに1839年にイギリスのウィリアム・ロバート・グローブ卿によって発明され、実験室では発電に成功していたのですが、実用的な製品ができませんでした。
 最初に利用したのは1960年代のアメリカの宇宙船で、とりわけ1969年7月に月面に人類が最初に到着したときのアポロ11号の電源として利用されて注目されるようになりました。
 注目される理由は、
 1)水素と酸素さえあれば簡単な原理で電気を発電することができる
 2)発電効率が40%程度と高く、発電のときに発生する熱も利用すれば効率が80%程度にまでなる。
 3)発電の結果、発生するのは水だけであるから環境問題がない
 4)機械装置がないので、ほとんど音がしない
 ということです。

 技術開発も進み、最近では工場や病院などで100KWとか200KWの規模の大型のものから、携帯用のパソコンの電源として10Wから20Wの小型のものまで実用になっています。
 自動車にも燃料電池が使用されるようになり、話題になったのは昨年12月2日に首相官邸にトヨタ自動車とホンダ自動車の燃料電池自動車が1台ずつ納入され、小泉総理大臣が自分で運転したことです。これは燃料電池自動車が市販された世界最初のことで記念すべきことでした。

 しかし、まだ技術開発の段階ですから問題はあります。
 第一は値段が高いことです。発電技術としても高価ですが、自動車の場合は大量生産されていませんので、現在の燃料電池車は1台1億円以上とも言われており、現在はリース販売ですが、毎月のリース料金が80万円から120万円ですから、まだ普通に購入する段階にはなっていません。
 第二に、燃料電池自動車は1回の燃料補給での走行距離が300キロメートル程度なので、水素スタンドが必要ですが、現在は実験用に東京の都心に10ケ所程度が用意されているだけなので、自由には走行できないということです。ガソリンスタンドの全国5万2000ケ所までは時間がかかるにしても、天然ガスのスタンドの200ケ所程度にならないと、実用にはならないということです。
 第三は水素がガソリンより爆発の危険性が高いので、安全面では注意が必要なことです。
 第四がもっとも重要な問題ですが、水素をどのようにして確保するかです。現在の自動車に使用されている石油は50年程度で枯渇すると予測されていますから、水素さえあれば発電したり、自動車を走らせることのできる燃料電池は期待される技術ですが、その水素を何から生産するかです。
 現在は、大型の燃料電池や自動車用の燃料電池には圧縮した水素を使っていますし、パソコン用にはメタノールを使いますが、いずれも天然ガスから作った水素です。ところが天然ガスも化石燃料であり、現在の予測では70年ほどで枯渇するとされていますから、安泰というわけではありません。

 しかし、水素は水の電気分解で生産できますから無尽蔵といえなくもないのです。燃料電池で作った電気で電気分解をすれば元も子もありませんが、たとえば、海上に太陽電池を広げて発電し、その電気で海水を電気分解して水素を作れば可能性はあります。
 重要なことは、ガソリンは石油からしか作れませんが、水素は色々な方法で作ることができるという点で有利なわけです。
 日本は技術開発で遅れを取っていますが、燃料電池の実用化では世界の先頭を行っており、とりわけ自動車では世界で最初の市販車を発売したということでも、先行しており、期待の星というわけです。





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