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論文

 ドイツ人はカップに入ったイチゴヨーグルト大好きだそうで、ドイツでは年間数10億カップのイチゴヨーグルトが生産されているのですが、あの1杯のカップを生産するためには、牛乳を工場まで輸送し、イチゴも遠方から取り寄せ、紙コップも製造工場から輸送してもらわなければならないので、色々な材料を各地から輸送してきて生産しています。その生産された製品は再度、各地のスーパーマーケットまで輸送されて消費者に渡るという仕組です。
 その1杯のイチゴヨーグルトが生産されて消費されるまでに、すべての材料や製品が輸送される距離は何キロメートルになるかをドイツの学者が計算してみたら3500キロメートルという結果になったのです。
 しかも、牛乳を生産するためには飼料をどこかから運んできますし、紙コップの紙を生産するためには木材チップをどこかから運んでくるので、それらの距離も合計すると、さらに4500キロメートルが加算され、合計8000キロメートルを様々な材料がまさに右往左往して1杯のイチゴヨーグルトが手許に届くということになります。

 これは驚くような数字ですが、現在の大量生産・大量流通・大量消費の社会では、あらゆる分野でこのような無駄が発生しているのです。
 別の例では、日本国内で廃棄されている食糧の分量があります。農林水産省の調査では、年間2000万トン近い食糧が廃棄されています。食品加工の段階で400万トン、コンビニなど流通段階で600万トン、家庭で1000万トンという内訳です。
 個別には、パーティなどの宴会では16%が捨てられ、とりわけ結婚式の宴会では24%が食べられないままに捨てられているそうです。
 これらの数字も驚くべきことですが、さらに驚くべきことは日本国内で生産されている食糧は1500万トン程度ですから、その1・3倍以上を無駄にしているということです。ちなみに、日本で無駄にしている2000万トンの食糧があれば、3800万人の人間が1年間生活できるということですから、スペインやポーランド一国の人口を養えることになり、いかに膨大な無駄が発生しているかが分かると思います。

 この問題の根本は、ある場所で大量生産した食糧を世界に大量流通させる構造にあると思います。
 そこで、最近「地産地消」という運動が活発になってきました。これはある地域で生産した食糧は、その地域で消費しようという発想で、全国各地で転換されています。例えば、鳥取県内の小中学校では給食で地産地消が推進されており、全体では37%の食材が県内で生産されたものですし、一部の学校では82%にまでなっています。

 これは「身土不二」という仏教の言葉とも共通する概念で、身体と土壌は一体であるということから、自分が生活している場所から四里四方、すなわち16キロメートル四方程度の範囲で栽培されている食物を食べるのがいいという運動です。
 青森県にある東北牧場では「身土不二」という名前の卵を発売していますが、これは牧場の一部で、農薬や除草剤を一切使用しないで育てたトウモロコシや大豆などをエサとしてニワトリを放し飼いで飼育し、そのニワトリの産んだ卵を販売していますが、1個200円もするのに大変な人気で品不足なほどです。
 この身土不二の国際版が「スローフード」運動で、やはり地域で生産された食物を食べようという発想です。

 この活動の効果の第一に食物の身元が分かって安全だということです。ここ数年、食品表示の偽装問題が頻発していますが、あれはどこでどのようにして生産されたかが不明なために、その表示を信用するしかないために発生する問題ですが、自宅の近所の農家が生産しているということであれば、素性は良く分かり安心というわけです。
 第二に新鮮な食品が安価に手に入ります。近所で生産されていますから、中国のホウレンソウやアメリカのレタスのように冷凍して輸送するなどのエネルギーの無駄もありませんし、流通コストも減りますから、安くなります。
 第三に地場産業の育成になります。イタリアのスローフード運動では、大量生産の製品に押されて生産を止めてしまった伝統のチーズやソーセージを、必ず購入するからという条件で農家に生産してもらっていますが、そのように大量生産のなかで衰退していった産業を蘇らすことも可能です。
 そして、非常に重要なことは、生産した食品は確実に付近の消費者に渡りますから大量流通の過程で発生する年間1000万トンにもなる無駄が削減されるということです。

 そのような背景で、現在、日本各地でも地産地消運動が熱心に推進され、新しい動向になっています。
 このような地産地消をはじめとして、大領生産・大量流通・大量消費の社会の抱える問題を、どのように解決するかということを提言した『縮小文明の展望:千年の彼方を目指して』を、昨日、東京大学出版会から出版しましたので、ぜひお読みいただければと思います。





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