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論文

 今週はテレビ番組の撮影のため、4日間をかけて北海道にある天塩川をカヌーで下っている最中です。今日は延長256キロメートルある日本で4番目(信濃川/利根川/石狩川)に長い天塩川の中流にある中川という町に来ています。
 北海道の中央に北海道の最高峰である大雪山がありますが、その北側に標高1558メートルの天塩岳という山があり、そこから北のほうへ流れて日本海に注いでいるのが天塩川です。
 現在は丁度、雪解け水が流れ出している時期で、目の前に流れがありますが、非常に速く、カヌーで漕ぐのも楽な時期です。

 このような大量の水が流れている川を見ると、イザヤ・ベンダサンの名著『日本人とユダヤ人』(1970)の中の「日本人は水と安全はタダだと思っている」という言葉を思い出しますし、むしろ、水が豊富すぎて洪水に悩まされてきた印象のほうが強いと思います。
 実際、天塩川でも、1919(大正8)年には700戸以上が浸水していますし、それ以後も1952(昭和27年)に1100戸、1970(昭和45)年に450戸、1981(昭和56)年に520戸と、洪水には苦労してきています。
 水が豊富すぎて洪水が発生するわけですが、今日は日本の水は豊富ではないという話をさせていただきたいと思います。

 数字では水は豊富です。日本に年間、雨や雪として降る水は6500億トンありますが、そのうち35%は蒸発してしまい、川に流れたり地下水になったりして、人間が利用できるのは65%の4200億トンです。これは琵琶湖の貯水量の15倍に相当します。
 このうち現在使用しているのは20%強の890億トンで、その3分の2の390億トンを農業に使用し、工業に140億トン、我々が生活に使用しているのは18%の165億トンになっています。

 問題なさそうですが、日本は水の輸入大国なのです。
 日本の食糧自給率が40%程度で、60%は輸入しているということは御存知だと思います。とりわけ、小麦は90%、大麦は95%、大豆は98%など、コメ以外の穀物はほとんどが輸入に依存しており、穀物の自給率は30%以下です。
 当然、これらの穀物を生産している現地では水を使用しているわけですが、それが半端な量ではなく、東京大学の沖助教授の計算によると、1トンの小麦を生産するためには2900トンの水、1トンの大豆には2400トンの水、1トンのトウモロコシには1000トンの水が必要なのです。
 さらに、ウシやブタの飼育にも水は必要ですし、その餌になるトウモロコシなどの穀物の生産にも水を使いますから、鶏肉1トンには4000トンの水、豚肉には6000トンの水、牛肉になると1トンの牛肉のために2万5000トンの水が必要なのです。輸入の牛肉の100グラムのステーキを食べると、2・5トンの外国の水を使用しているという計算です。

 したがって、穀類や肉類を海外から大量に輸入している日本は、結果として毎年1000億トン以上の水を輸入していることになります。内訳は牛乳の形で45%、小麦の形で19%、大豆の形で16%、トウモロコシの形で12%を輸入しています。
 日本国内で農業に使用している水が390億トンですから、その2・6倍の水を輸入している計算なのです。
 このように穀物や肉類の形で輸入している水を「仮想水(バーチャル・ウォーター)」とか「間接水」と呼んでいますが、この仮想水の輸入では日本は世界最大の水輸入国になるというわけです。
 今年3月に関西で開催された「第3回世界水フォーラム」でも議論されましたが、世界には水不足の国が多数ありますから、これは大問題です。
 現在でも世界には2億3000万人以上が飲水不足で困っているといわれていますし、国連の研究機関が共同で研究した結果によると、2050年には、90億人の世界の人口のうち、70億人は水不足に直面する、すなわち10人に8人は水不足になるということですから大変なことです。

 世界の主要国の穀物自給率はアメリカが140%、フランスが200%、ドイツが125%、イギリスが110%、オーストラリアが340%と軒並み輸出国であり、中国も96%、ロシアも76%です。日本だけが穀物自給率26%と異常な状態であり、今後は世界全体で食料も不足すると予測されていますから、この状態から脱却しないといけないのです。

 古代ギリシャにミダス王という王様がいて、手に触れるものをすべて金にしてほしいと神様にお願いしたところ、願いがかなえられたのですが、食事をしようとするとパンも肉も金になってしまい食べられなくなってしまったという伝説があります。
 日本もお金があっても、食べ物が手に入らないというミダス王になりかねない状態なのです。





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