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論文

 今日は農業の新しい動向「スマート農業」についてご紹介したいと思います。
 日本は一般に考えられているほど農業小国ではなく、生産額では中国、アメリカ、インド、ブラジルなどには敵わないものの世界で6番目の規模です。
 ただし、食料全体の自給率はカロリーを基準にして40%前後で、世界の先進国の中では100%以上のフランス、カナダ、アメリカは別格としても、ドイツの91%、イギリスの74%、イタリアの71%などと比較しても自給率の小さな国です。   
 その結果、食料輸入額は世界で4番目に多い国になっています。
 しかも、人口が増大し都市へ集中してきたため、田畑が住宅地や工業用地に転換し、その結果、田畑の面積は1970年代の609万ヘクタールから2015年には450万ヘクタールと160万ヘクタールも減って、最盛期の4分の3になっています。
 さらに残っている450万ヘクタールの10%弱の42万ヘクタールは耕作放棄地になっています。

 その耕作放棄地で生産すればいいのではないかと考えられますが、問題は農業人口の減少と高齢者比率の増加により、生産する人手が足りないことです。
 1970年には農業就業者数は700万人でしたが、2015年には170万人と4分の1程度に減ってしまい、人口全体も減少していますから、今後はさらに減っていきます。
 そして2000年には65歳以上の農業就業者の比率が53%でしたが、2015年には64%になっており、3分の2が高齢者によって農業が維持され、平均年齢は66歳を超えているのが現状です。
 笑い話のように、かつては高齢の両親が炎天下で農作業をし、子供は農協に就職して冷房の効いた部屋で金勘定をしていると言われましたが、最近では農協など農村にも就職せず、都会に出て行ってしまう時代になりました。

 このような構造的な問題を解決しようと検討されているのがスマート農業です。
 第一はロボットを投入して農作業を自動で行う技術の開発です。
 これまで田畑を耕したり、田植えや種蒔きをしたり、刈り入れや収穫をしたりする農業機械はありましたが、人間が操縦をしていました。
 現在開発されているのは機械が無人で作業を行う農業ロボットです。
 北海道大学で開発されているロボットトラクターは、スタートボタンこそ人間が押しますが、それ以後は自動で畑を耕していきます。
 しかも1台だけではなく、数台が同時に作業をして重複したり、取り残したりしないよう協調作業をすることも可能になっています。
 アメリカやカナダの広大な畑であれば簡単ですが、日本のように狭い畑で境界線も一直線ではない畑でもGPSを利用して作業をします。
 とりわけGPSと日本が独自に打ち上げている準天頂衛星「みちびき」を併用すると、誤差5cmの精度で移動することができ、日本の狭い田畑でも作業可能です。
 栽培の途中では雑草を除去する仕事がありますが、ここにもロボットが登場し、日本では畦道などの雑草を自動で刈り取る機械が開発されていますし、スイスでは太陽光パネルで動力を得ながら、作物には除草剤を撒かず、雑草のみを選んで除草剤を撒くロボットも開発し、除草剤を撒く量を95%も減らしています。

 さらに高度な作業をするのはトマトやイチゴを収穫するロボットです。
 パナソニックが開発したトマトを収穫するロボットはレールの上を走りながら、カメラでトマトの実を発見し、成熟度を画像認識技術で判断し、ロボットアームを伸ばしてもぎ取ります。
 現在は6秒で1個の速度で、人間の2倍近い時間がかかっていますが、人間は続けて4時間くらいしか作業をできませんが、ロボットは休みなく働きますから1日あたりではロボットの方が働き者ということになります。
 イチゴ生産量日本一の栃木県にある宇都宮大学ではセンサーで熟して収穫に適したイチゴのみを見つけて収穫するロボットを開発しています。
 イチゴは少しでも傷をつけると商品にならないので、身の部分に触れずに、実の根本にある柄の部分だけを掴んで収穫する技術を開発しています。
 現状では1粒のイチゴを収穫するのに9秒から12秒かかりますが、急速に進歩していくと思います。
 信州大学ではホウレンソウを自動収穫するロボットを開発しています。
 ホウレンソウは人間が収穫しても傷をつけやすい野菜ですが、土の中に刃物を入れて根を切り取る技術を開発しています。
 ロボットは日本の得意とする技術分野で、農業ロボットの特許出願件数でも世界1位であり、農業の人手不足、高齢化問題を解決するだけではなく、新しい産業を育成することにもなります。

 第二の分野は作物を最適の条件で育成する技術です。
 田畑に温度、湿度、風速、日照量を10分間隔程度で測定する計測装置を設置、同時にカメラで作物の状態を撮影し、どういう時に病害が発生するかという因果関係を調べると、これまでは一定間隔で散布していた薬剤を必要な時期に散布することが可能になり、作業が簡単になります。
 実際に山梨県のワイン用のブドウを栽培しているワイナリーでは実用になっています。
 この技術を屋内で栽培する植物工場に導入すると、果物や野菜が最も成長する環境条件を分析することが可能になり、室内の温度、湿度、日照、通風などを制御することにより収穫を最大にすることが可能になります。

 このような技術を採用したオランダの植物工場と日本の普通の温室のトマトの収穫量を比較すると、1980年くらいまでは大差がなかったのですが、20年後には単位面積あたりの収穫量が7・4倍もの差になったという事例があるほどです。
日本は人口が減少する上に、三次産業に労働力が集中し、一次産業は人手不足かつ高齢化が進んでいますが、得意のロボット技術や情報技術によって、これまでより楽に農作業ができる方向に転換しています。
 人口減少時代の日本の産業のあり方を示す例だと思います。





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