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論文

 地球が誕生したのは四六億年前、最初の生命が水中で誕生したのが四○億年前、その生命は水中に雌伏三六億年と我慢し、やっと陸上へ進出したのが四億年前といわれています。そして現在の人類の直系の祖先が誕生したのが二○万年前です。
 これではよく解らないので、地球の歴史を丸一日二四時間に例えてみると、深夜○時に地球が誕生し、最初の生命が誕生したのが午前三時、陸上に生物が進出したのは一九時間も経過した午後一○時なのですが、われわれの直系の祖先が誕生したのは、二三時五九分五六秒、すなわち深夜一二時の四秒前という一瞬です。
 しかも、この四秒の間に人間の数は一○○○倍も増えてしまったのです。しかし、もっと大変なことは、二四時の○・○○四秒前に使い始めた石炭と、○・○○二秒前に使い始めた石油の影響で、人間一人が一日に使うエネルギーが一○○倍に増えてしまったということです。
 したがって、この数万年で人口が一○○○倍、一人が使用するエネルギーが一○○倍に増えましたから、掛け算してみると、人類が使用するエネルギーが地球の歴史の二千万分の一の時間で一○万倍に増えたということです。

 何か起こらないほうがおかしいのですが、それが地球規模の環境問題で、最大の問題は地球温暖化です。この○・○○四秒の間に、空気の中の二酸化炭素が一・三倍にも増えてしまい、それが温暖化の原因だと推定されています。

 この問題の解決が如何に大変かを示す計算結果があります。国連で地球環境問題を検討するために、IPCCという組織が作られ、世界の学者が四○○○人ほど集まっているのですが、そこが発表した数字によると、もし、地球を何とか現状に維持したいと人類が決意するのであれば、これから直ちに二酸化炭素の発生を減少させる努力を始め、七○年後に一○○年前の発生量と同じにすれば何とかなるという結論です。
 これは出来そうですが実は大変なことです。簡単に言えば、これから七○年の間にわれわれの生活水準を一九○○年当時に戻しなさいということです。
 一九○○年という年に、アメリカ全体の自動車生産台数は二五○○台だったそうですから、ほとんどの人は自動車に無縁の時代でした。これから七○年で、救急車など、どうしても必要な自動車以外は存在しない社会に戻れということになります。
 最初のエアコンが設置されたのが一九○二年ですから、一○○年前にはだれもエアコンを使用していませんでした。これから七○年間で世界のエアコンを撤廃するということになります。
 これは技術開発の可能性を無視していますが、それくらい大変なことなのです。

 これまで人間は野放図に拡大、発展、成長ということを、いいことだと信じてきましたが、そろそろ方向転換の必要があるということではないかと思います。
 偶然か必然かは分かりませんが、タイミングよく、日本は人口も減り始め、経済も下降に向かい始めましたから、縮小、減少する社会を構築することは不可能ではないと思います。
 大事なことは縮小しても幸福だという社会を創ることです。トルストイが「幸福な家庭はどこも同じようであるが、不幸な家庭はすべて様子が違う」と書いていますが、その逆で、「幸福な生活はすべて様子が違う」という社会にしていくことだと思います。
 ピアノを持つことが幸福だと、だれもが考えていた時代には、ピアノが買えない家庭は不幸でしたが、西洋音楽よりは邦楽が優雅だという価値観を持てば、尺八でも幸福になれるということです。

 昨年暮れの新聞にも紹介されましたが、この一月八日から大学を辞めて、総務省の役人になることになり、職務規定で放送に出演できなくなってしまいました。途中で多数の方々にお葉書をいただいたりして、この番組には愛着があって残念ですが、今回で退場させていただきます。また、役人を辞めた段階で機会がありましたら、再度、出演させていただければ幸いです。





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