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論文

 新しい世紀の最初の1年が終わろうとしていますが、過去10年間は「失われた10年」という言葉で総括されています。これを検証してみて、日本はどうすべきかを考えてみたいと思います。

 まず10年前と現在を比較して、失われた実態を示してみます。
 スイスのシンクタンクの評価では、日本の地位は10年前の1位から26位に低落しましたが、この数字が全体を簡潔に表現しています。
 しかし、個別の数字でも低落は明らかです。日本の資産である土地、建物、対外純資産などの合計である「国富」は3560兆円から2970兆円と17%減少しました。第二次世界大戦で日本が失った国富が13%程度と推計されていますから、この10年を第二の敗戦というのはもっともです。
 ただし第一の敗戦の時のように310万人の死者が発生しなかったことは幸運ですが、経済的には第一の敗戦以上の損害だったと思います。
 経済分野では東証平均株価が2万1800円から1万434円と半分以下になってしまい、完全失業率も2・0%から5・4%、経済成長率は5・3%からマイナス2・4%と大幅に減少しています。世界で成長率がマイナスの国はほとんどない中で、日本は数少ないマイナス成長国家です。

 さらにくらい数字では、倒産件数は1万0723件から1万9700件と84%増加、
 国債発行残高、すなわち国の借金総額は172兆円から380兆円で126%増加、
 日本道路公団の有利子負債は16兆円から27兆円で67%増加です。

 このような経済の数字だけでは表現できない失われたものもあります。
 例えば、犯罪の発生率は人口10万人あたりで1324件から1709件で30%増加
 一方、検挙率は42%から20%台まで低下
 火災の発生件数は5万6500件から5万8500件と4%増加
 火災による死者は1828人から2123人で16%増加
というように、社会不安は拡大しているようです。

 原因を究明する必要がありますが、私は日本を取り巻く環境が180度方向転換したのに気付くのが遅れ、社会の方向転換ができなかったのではないかと思います。
 例えば、分権社会を作らなければいけないという議論は、この30年ほど続いてきましたし、大阪圏や東海圏では25年前から人口は減少しはじめていたのですが、分権社会の制度が実施されたのは1年前のことです。
 構造改革も96年の橋本内閣のときから実施すべきだと言われてきましたが、実際には6年後の小泉内閣で何とか動き出したというところです。
 もうひとつは現在の政治と同様に、既得権益のある業界が革新的なものを拒否する性質があることも、日本の転換を遅らせたと思います。
 IT革命を例にすると、1990年代の前半からインターネット時代が始まったのですが、日本はインターネットに懐疑的な学者や、それが普及すると困る企業が推進を躊躇したために、世界で19位の普及率になっています。
 そのインターネット回線をブロードバンドにする時代が始まって、ADSLが有望だと分かっても、NTTが乗り気ではなく普及が遅れました。韓国は一気にADSLを普及させ、インターネット全体の普及率でも世界7位ですし、ブロードバンドの普及はアメリカの5倍、日本の9倍で世界1位です。

 北海道の建設会社の社長が言っておられましたが、ある地域を水田にするために用水路の工事を請け負って完成させたところ、翌年には、そこを畑にするため、その用水路を埋め戻す契約をしたということです。こういう無駄がまかり通っているのが日本です。

 ここから脱却するために有効な政策は分権だと思います。面白いデータがあるのですが、世帯あたりのインターネット回線の速度を都道府県単位で比較した数字を見ると、三重県が圧倒的に1位です。これはCATV会社が提供していることも影響していますが、小さい地域の方が有利だということを示しています。
 タンカーは方向転換に時間がかかるけれど、モーターボートは一瞬で方向転換できるということです。そういう意味では、個人が方向転換することがもっとも基本になると思います。





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