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論文

 今日は地域通貨について紹介させていただきます。
 通過は国家が発行するのが普通で、日本であれば閣議の了承により財務大臣が許可をして、日本銀行が発行する仕組になっています。それを地域で独自に発行するというのが地域通貨です。江戸時代には藩札というものがあり、244の藩が独自の通貨を発行していましたが、これは幕府の許可を得て発行していました。
 ところが、地域通貨は政府の許可も日本銀行の許可もなく、NPOなどが勝手に発行しているのです。

 最初にどのようなものかを紹介します。
 地域通貨の手本とされているのはニューヨーク市から北西に300キロメートルほどの場所にあるイサカという町です。有名なコーネル大学がある場所ですが、人口3万人ほどの田舎町で、ここで1991年に「イサカアワー」という地域通貨が発行されました。
 地域通貨を使用したい人は管理している非営利団体のイサカアワー委員会に、自分がどのようなサービスが提供できるか1ドルを添えて申し込みます。例えば草刈ができる、ピアノを教えることができる、自家製のハーブを売ることができるなどと申請します。そうすると、その内容が「アワータウン」という新聞に掲載されるとともに、2イサカアワーの地域通貨が送られてきて準備完了です。
 その新聞を見て、ピアノを教えてもらいたいけれどハーブで支払えないかと考える人がいれば、ピアノを教える人に電話をして交渉し、過不足をイサカアワーで調整するということになります。
 簡単に言えば、地域の人々が物々交換をするときに、その交換内容の過不足を調整するのが地域通貨になるということです。

 地域通貨はNPOなどが自由に発行しているので、正確な数は分かりませんが、インターネットで調べてみると、11月現在で、日本国内に30近くあります。
 例えば、千葉県には「ピーナッツ」、滋賀県草津市には「おうみ」、福岡市には「よかよか」など地域の特徴のある名前の地域通貨があります。アメリカでも100以上は確実にありますし、ヨーロッパでも普及しています。
 どのような効果があるのかが興味があると思いますが、一例を紹介します。イサカアワーはポール・グローバーという市民運動を実践しているジャーナリストが始めたものですが、その契機となったのは、ある町で食料品店の経営者が店の引越し費用を銀行から借りようとしたら断られたので、自分で「食料品ドル」を5000ドル発行して、引越しを手伝ってくれた人に支払い、それで自分の店の商品と引き換えることにしたというニュースをヒントにして始めたのです。
 引越しの手伝いの賃金を食品というモノで支払ったということで、一種の物々交換ということができます。

 法定通貨といわれるドル($)とかエン(¥)で支払うと、そのお金は地域の外部でも使われてしまいますが、「食料品ドル」であれば、その食料品店でしか通用しませんし、「イサカアワー」であればイサカの町でしか通用しませんから、地域の経済が繁栄することになるわけです。
 また、地域通貨は一般に金利がつきませんし、地域通貨によっては毎月価値が下がっていく仕組のものもありますから、貯めておかないようになり、これによっても経済が活性化するわけです。

 通貨の発行は国家の専権事項とされていますが、地域通貨を発行して犯罪にはならないのかが心配になりますが、地域通貨を発行して逮捕された人がいます。
 地域通貨の最初と言われているのは、1933年に、ドイツとの国境に近いオーストリアのヴェルグルという人口5000人の町で発行されたものです。大恐慌の影響で、大量の失業と負債で町が破綻状態にあったので、町長が「労働証明書」という地域通貨を発行し、公共事業で労働した人の支払いに充てたところ、日が経つにつれて価値が減っていくので貯め込めませんから、その地域通貨が次々と流通し、一気に経済が回復したのです。 
 ところがオーストリア政府は通貨の発行は国家の独占的権利であるという理由でウンターグッゲンベルガー町長を国家反逆罪で起訴したという事件があります。

 しかし現在、アメリカでは合憲とされていますし、イギリスではブレア首相自身が、地域経済の活性のために推奨しています。日本では、いまのところ財務省も静観しており、唯一の注意は「円」という名前では発行しないことです。

 バブル経済のとき、ある会社の社長さんが、会社の経費で頻繁に高級な寿司屋で食事をしていたのですが、引退してから奥様を同伴してその寿司屋に行き、自分で支払おうとしたら、払えないくらい高かったのでびっくりしたという実話があります。
 日本には「会社円」と「家庭円」があり、その価値に10倍くらいの格差があったというわけです。
 実は現在の世界経済も同様で、地球全体の総生産、簡単にいえば具体的なモノやサービスと交換できる経済規模は30兆ドルですが、通貨取引量は10倍の300兆ドルといわれています。
 これらはコンピュータの内部を回っているだけで、私たちの生活に直接の恩恵がないのに影響だけ与えているという不当な経済活動です。これに反抗しているのが地域通貨と理解することもできます。





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