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論文

 ストックホルムの現地時間で12月10日午後に名古屋大学の野依良治教授がノーベル化学賞を受賞されましたので、そのノーベル賞について考えてみたいと思います。
 ノーベル賞はスウェーデンのアルフレッド・ベルンハルト・ノーベル(1833−96)という19世紀の実業家が創設したので、この名前がついています。
 ノーベルは父親がスウェーデンで事業に失敗してロシア帝国のペテルブルグに移住し、そこで爆薬製造をしていた関係で、この分野に詳しくなり、スウェーデンに戻ってから爆薬の改良に取り組んでいました。

 当時の爆薬は液体のニトログリセリンを使用していましたが、これが大変に危険な物質であることを表現したフランス映画『恐怖の報酬』があります。アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督の名画で主演がイヴ・モンタンです。内容はフランスで食い詰めてベネズエラに流れてきた4人の男が、500キロメートル離れた油田の消火のため、ニトログリセリンを満載した2台のトラックをジャングルの中を運転していくという内容です。劇中の「君は運転で報酬をもらう、俺は恐怖でもらう」というセリフから付けられた題名です。
 あの映画にあるように、少し振動しただけでもニトログリセリンは爆発しますから、大変に危険な爆薬だったのです。

 そこで、ノーベルが工夫をして、ニトログリセリンを珪藻土という土に滲み込ませて安全な爆薬を発明し、1867年にスウェーデンとイギリスとアメリカで特許を取りました。これが大当たりし、また、後年、カスピ海の湖岸にあるバクーの油田開発にも成功し大金持ちになりました。
 しかし、自分の発明した爆薬が戦争で使われ、戦争を悲惨なものにしていると深く反省し、独身で家族もいなかったこともあり、遺言により全財産をノーベル財団に寄付して、人類に貢献した人に賞を授けるようにしたのがノーベル賞です。授賞式は毎年、ノーベルの命日の12月10日に行われます。

 いくつかの賞がありますが、科学関係では物理学賞、化学賞、医学生理学賞の三分野、それ以外に文学賞と平和賞があります。現在は経済学賞もありますが、これは戦後の1969年に創設されたものです。

 これまで多数の有名人が受賞していますが、主な名前を挙げてみると、
   物理学賞
    1901 W・C・レントゲン(X線発明)
      03 M・キューリー/P・キューリー夫妻(ラジウム分離)
      09 G・マルコーニ(無線通信発明)
      21 A・アインシュタイン(相対性理論発見)
      56 ブラッテン/バーディーン/ショックレー(トランジスタ発明)
      65 R・P・ファインマン(くりこみ理論発明)
      72 J・バーディーン(超伝導理論発明)
   化学賞
    1911 M・キューリー(金属ラジウム分離)
      35 J・キューリー/I・キューリー(人工放射能)
   医学・生理学賞
    1904 I・パヴロフ(条件反射発見)
      05 R・コッホ(結核菌/コレラ菌発見)
      45 A・フレミング(ペニシリン発見)
      62 J・D・ワトソン/F・H・C・クリック(DNA二重螺旋構造)
   文学賞
    1905 H・シェンキェヴィッチ(ポ)「クオヴァディス」
      11 M・メーテルリンク(ベ)「青い鳥」
      13 R・タゴール(印)
      15 R・ロラン(仏)「ジャン・クリストフ」
      29 H・ヘッセ(瑞)
      53 W・チャーチル(英)「第二次大戦回顧録」
      64 J・P・サルトル(仏)受賞拒否

 毎年、日本人の受賞が少ないと話題になりますが。人類への貢献なので国籍を問題にする必要はないと思いますが、科学の三分野で数えてみると、
    アメリカ   203
    イギリス    69
    ドイツ     62
    フランス    26
    日本       7
と、先進国といわれる中では少ないのは確かです。理由としては、第一に言葉の問題があると思います。最近でこそ、日本でも科学分野は英語で書かなければ論文と認められないほどになっていますが、文学であれば日本の小説は圧倒的に不利です。
 第二に、評価の基準が欧米の価値観に偏っているので、日本には不利だということもあると思いますが、やはり、明治以来の日本の学問が実利の少ない科学よりも、実利のある技術に偏ってきた影響もあると思います。
 日本政府の科学技術政策も今後50年間でノーベル賞受賞者を30人輩出するという目標を掲げていますが、国際貢献という視点からであれば結構だと思います。
 しかし、科学も多様なほうがいいので、本田宗一郎さんが創設された本田賞や、稲盛和夫さんが創設された京都賞なども価値があると思います。

 東京大学出身者が少なく、京都大学出身者が多いと言われますが、ノーベル文学賞を受賞した川端康成も大江健三郎も東京大学ですし、ノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作も東京大学なのですが、科学三分野の七名の内訳は、京都大学(湯川秀樹/朝永振一郎/福井謙一/利根川進/野依良治)が5名、東京工業大学(白川英樹)が1名で、東京大学(江崎玲於奈)は1名ですから少ないのですが、理由は少し有名になると政府の審議会委員に引っ張り出されて研究時間が少なくなるからだという意見もあります。しかし、屁理屈を言っていないで独創性を発揮する必要はあります。





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