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論文

 先週の12月1日に皇太子ご夫妻に内親王がご誕生ということで、大変おめでたいことですが、内親王であったために、しばらく話題にならなかった皇位継承問題が復活してきました。つまり女性の天皇を認めるかどうかという問題です。そこで今日は女帝について考えてみたいと思います。
 日本では話題になっていますが、世界では女性の君主や元首は歴史上多数存在します。世界各国で制度が違いますので、一概に論ずるわけにはいきませんが、女性の君主や元首は珍しいことではありません。
 有名な女帝は古代エジプトのプトレマイオス王朝の最後の王となったクレオパトラ七世(BC69−BC30)です。当初は弟のプトレマイオス13世と共同統治をしていましたが、追い出されてしまったので、シーザーの力を借りて復帰し、シーザーの子供を生みましたが、シーザーの死後、ローマ帝国の政治家マルクス・アントニウスを誘惑し、貞淑な夫人のオクタヴィアを離縁させて結婚。紀元前31年のローマ帝国との戦いであるアクティウムの海戦で敗北。アントニウスは自殺して、彼女も捕虜になりますが、ドラマでも有名な場面になっているように、毒蛇に身体を咬ませて自殺という、まさに波乱万丈の生涯を過ごした女性です。

 近代に近づくと、どちらかと言えば悪名高い女帝ですが、18世紀のロシア帝国の女王エカテリーナ2世(在位1762−96)がいます。皇帝ピョートル3世と結婚するのですが、この皇帝が無能であったので廃して殺害し、自らが皇帝になったというなかなか恐ろしい女帝です。しかし文化人でもあり、フランスの百科全書派の文化人ヴォルテールと文通したり、評論や戯曲を書いたりし「ペンの女王」とも言われた女帝です。

 名君といわれる有名な女王は、やはりイギリスのヴィクトリア女王(在位1837−1901)だと思います。83年の生涯のうち、18歳で即位して83歳で亡くなるまで65年間も女王として君臨した名君で、最愛の夫アルバート候と清純な家庭生活を過ごして国民の敬愛を受けていました。しかし、43歳になった1861年にアルバート候が亡くなってからは一時、隠遁生活に入りましたが、国民からの要望で政務に復帰し、まさに大英帝国の最盛期の顔として活躍した名君です。
 イギリスは現在もエリザベス二世ですから女性が多い国です。女王ではありませんが、サッチャー首相(任期1979−1990)もイギリスを立て直した名首相です。

 日本の天皇ですが、125代の天皇のうち8名の女性の天皇が10代にわたって即位しておられます。最初の女性の天皇は飛鳥時代の第33代推古天皇(592=628)です。第29代の欽明天皇の第3皇女で、崇峻天皇が蘇我馬子の手先により暗殺されたとき、臣下の人々の要請によって即位されました。聖徳太子を摂政とし、数次にわたって遣隋使を派遣、官位12階を制定(603)、憲法一七条を制定(604)窓、国家の基本を整備した名君です。
 第41代の持統天皇(686−697)も有名です。天智天皇の第2皇女で、天武天皇の皇后でもあります。百人一首にも入っている万葉集に残る名歌「春すぎて/夏来にけらし/白妙の/衣ほすてふ/天のかぐ山」で有名です。
 それ以外にも、江戸時代の第109代明正天皇(在位1629−43)や第117代後桜町天皇(在位1762−70)なども居られ、日本でも珍しいわけではありません。

 女性天皇の課題となっているのは皇室典範です。皇室典範の第1条に「皇位は皇統に属する男系の男子が、これを継承する」に書いてあるからです。しかし、見てきたように、これまでも女性の天皇は在位しておられますし、山崎拓幹事長が「社会の変化を考えれば女帝が認められてもいい」とか、野中広務元幹事長が「日本も男女共同参画社会を目指している。改正は当然あっていい」とか、自由党の小沢一郎党首も「女性の皇位継承ということも一向に差し支えない」と述べておられるように、皇室典範の改正も議論の対象にするべきだと思います。

 もちろん歴史的・伝統的背景があるので簡単に結論が出せる問題ではありませんが、議論する社会的な背景は整ってきたのではないかと思います。
 しかし、私は別の社会の流れから女性の天皇を期待しています。21世紀は環境の時代といわれますが、環境を維持するのには女性の力が重要だからです。
 70年代にフランスのフェミニスト作家フランソワーズ・ドボンヌが「エコ・フェミニズム」という概念を提唱しています。彼女の考えでは、現在の世界の差し迫った脅威である「人口の過剰と環境の破壊」は男性中心のシステムが原因だということで、ここから脱却することが本当に環境問題を解決することになるという主張です。「女性に抱かれた惑星は、すべての生命にとって再び緑の惑星となるであろう」という言葉が象徴していると思います。

   生命を継承する力のある女性が環境のことを考えることが重要であり、その視点で世界を再構築する必要があるという考えは、西洋では過激な反体制思想と思われたりもしていますが、世界を多様な視点から検討しなおすことが重要であるとすれば、女性が天皇になられるかどうかはともかく、女性が積極的に社会に参加して、男女の視点が対等になるくらいにしないと、21世紀は行き詰まってしまうのではないかと思います。





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