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論文

 アメリカとタリバンの戦争が続いていますので、今週もハイテク戦争の話をしたいと思います。
 最近、アメリカでは炭疽菌(バシラス・アントラシス=アンスラックス)がホワイトハウスに郵便で送られてきてパニック状態ですが、このようなバイオテロの話をしたいと思います。
 「あなたがたは、かまどの煤を両手にいっぱいとり、それをモーゼはパロの目の前で天に向かって撒き散らしなさい。それはエジプト全国にわたって細かいチリとなり、エジプト全国の人と獣に付いて、膿のでるはれものとなるであろう」という文章が『旧約聖書』の「出エジプト記」第9章にあるのですが、これは紀元前1250年頃のエジプトを襲った疫病の記録であると推定され、疫病は炭疽病ではないかといわれています。
 それ以前から存在していたのだと思いますが、記録にある最初の炭疽菌です。またヨーロッパでは家畜の病気として以前から知られていたものです。炭疽菌そのものを発見したのはドイツの研究者ロベルト・コッホで1876年のことです。コッホは結核菌の発見でも有名で、その業績で1905年にはノーベル賞を受賞しています。しかし、炭疽菌の毒素の作用が解明されたのは、戦後の1954年のことですから、それほど古いことではありません。

 それが最近では兵器になっているのですが、細菌を兵器にするには、いくつかの条件が必要といわれています。
   第一に大量生産しやすいこと。
   第二に安定していて長期間保存が可能なこと。
   第三に人間の五感で感知できないこと。(1/1000mm以下)
   第四に潜伏期間が短いこと。(1〜6日)
   第五に致死率が大きいこと。(肺炭疽100%、腸炭疽50%)
ですが、炭疽菌は、これらの条件を完全に満足しています。

 細菌兵器のことを貧者の核兵器といいますが、炭疽菌は比較的簡単な装置で生産できるので安価です。例えば一定の人数を殺傷するのに必要な核兵器の製造価格を2000とすると、サリンなどの化学兵器は800ですが、細菌兵器は1で済むそうです。
 実際、1993年6月と7月にオーム真理教が東京の亀戸のアパートで炭疽菌を培養して散布したわけですが、それほど簡単に製造できるのです。
 また、乾燥状態になると芽胞(ガホウ)という繭のような膜を形成して、何年でも生存しますから保存が簡単ですし、弾頭に積み込んで空中で爆発させても大丈夫です。
 さらに皮膚感染、空気感染、経口感染のすべてで感染しますから、古くから細菌兵器の手段として研究されてきました。
 50キログラムあれば10万人の人を殺せるといわれていますが、1996年に国連イラク特別査察委員会=UNSCOM)が査察して爆破したアルハケム基地(バグダッド南西60キロメートル)には8400リットルの炭疽菌があったそうですから、それだけで2000万人を殺傷できる威力です。

 日本でも太平洋戦争中に満州にいた関東軍731部隊はチフス菌、コレラ菌、ペスト菌などと同様に、炭疽菌も兵器にする研究をしていたようです。炭疽菌は兵器とするのに格好の性質をもっているのですが、最大の欠点は効果が持続するため、味方にとっても危険だということです。
 スコットランドの沖合い5キロメートルのところに地図にも出ていないようなグイルナード島(250ヘクタール)という小島があるのですが、この島は過去半世紀にわたって立ち入り禁止になっています。第二次世界大戦中の1942年に1年間にわたって、イギリス軍が世界で最初の炭疽菌爆弾の実験をするなど炭疽菌兵器の実験をしたために全体が汚染されてしまったからです。一度は島に生い茂るヒースを焼いて絶滅させようとしたのですが、芽胞が地中に潜り込んでいるので絶滅できなかったのです。

 ソビエトでも琵琶湖の100倍の面積のあるアラル海にあるヴォズロズデニエ島でヒヒを使用して実験していました。その研究を指揮していたケン・アリベック(カナジャン・アリベコフ)がアメリカに亡命して詳細が明らかになりました。
 モスクワから1500キロメートル東のスベルドロフスカ(エカテリンブルグ)という都市で炭疽菌兵器を生産していたのですが、1979年4月に工場から町の中に炭疽菌が流出して、相当の人数(公式には64名、噂では数百名)が亡くなっています。

 それ以外にも、東アジアでは朝鮮人民共和国、大韓民国、中国、台湾、ベトナムなどで研究していると推定されていますが、中近東でも、シリア、イスラエル、イラン、イラク、エジプトは研究しているようです。
 防ぐ方法について、アメリカでは感染した人を抗生物質で治療していますが、初期であれば治療も可能ですし、ワクチンもあるのですが、これは4週間以上経過しないと効果がないので、すぐには間に合わないと思います。さらに最初の3回は2週間間隔、その後、6ヶ月たってから、1年たってから、1年半たってから接種しないと免疫が発効しません。
 アメリカでは1998年に、兵士全員に炭疽菌のワクチンを接種しているようです。

 このような兵器は1972年の「細菌兵器および毒素兵器の開発、生産、貯蔵の禁止ならびに廃棄に関する条約」で制限されているのですが、少なくとも20ヵ国近くが研開発しているとすれば、日本も対策を考えておく必要があると思います。





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