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論文

 今日は食物の話をしたいと思いますが、最近は口蹄疫や狂牛病が騒がしくなっています。
 今年2月20日にイギリスで20年ぶりに口蹄疫の発生が確認されて大騒ぎになりましたが、その後3月13日にフランス、3月21日にオランダ、3月22日にアイルランドでも発生し、欧州全体の騒動になりました。
 蹄(ヒヅメ)が二つに割れた動物を偶蹄類動物といい、ウシ、ブタ、ヒツジ、シカなどが代表ですが、それらの動物がかかるウィルスで感染する伝染病が口蹄疫です。症状としては口や鼻や足に水泡ができ、体重などが激減するようです。
 この病気は動物同士の接触だけではなく、土や風でも伝染するので対策が大変です。

 日本で大騒ぎになっている狂牛病は1986年にイギリスで初めて発見された病気で、ウシの脳がスポンジ状態になって、歩行困難になったりして死んでしまいます。現在でも原因は完全には解明されていませんが、共食いが原因という意見があります。
 狂牛病という言葉を聞くたびに、子供の頃に習った漢詩を想いだします。後漢の末期から三国時代にかけて活躍した曹植という詩人がいるのですが、三国のひとつの国の魏の文帝が曹植に、七歩を歩くうちに詩を作れ、もし出来なければ処刑するという無理難題を課したときに作った漢詩です。
     煮豆持作羹(豆を煮て羹となし)
     漉皷以為汁(豆乳を漉して汁となす)
     其在釜下燃(豆柄は釜の下で燃え)
     豆在釜中泣(豆は釜の中で泣く)
     本是同根生(本は同じ根より生じたものである)
     相煎何太急(お互いに煎るとはまことに急である)
 豆を煮るのに同じ植物から生じた豆柄を燃やすのは残酷なことだという意味です。

 狂牛病の原因は、本来は草食のウシに肉骨粉という動物性の飼料を与えたことだと推定されていますが、この肉骨粉は同じ仲間のウシの死体を飼料にしたものです。もちろん、その飼料から伝染したということでもありますが、共食いを強制したということでもあるのです。ウシの気持ちは分かりませんが、少なくとも肉体はタブーを犯すことに拒絶反応をしたのではないかと思います。
 フランスの著名な文化人類学者のクロード・レヴィ・ストロースが「狂牛病の教訓」(1996)という論文で「ウシたちに共食(カニバリズム)を強いたために起こった災厄」と言っています。
 実際に、パプア・ニューギニアのフォレ族という食人の習慣のある民族では「クールー病」と言われる人間の狂牛病が発生していましたが、食人を止めて以後は発生していないという報告もあります。

 日本は長年、肉食の習慣がなかったので、役所も農家も牧畜に慣れていないということもあったと思いますが、対応が遅れました。
 牧畜の原則は「疑わしきは罰する」で、伝染病の可能性のある家畜はすべて抹殺することです。実際、イギリスでは口蹄疫が発生してから、1頭につき250キログラムの石炭を使ってまで、数百万頭のウシを焼却処分すると徹底していますが、日本では肉骨粉を混合した飼料の使用禁止を発表するまで2週間以上もかかっているのは、伝染性の病気の恐怖の体験がないからだと思います。
 しかし、産業を守っても国民は守らないという発想の大臣や役所の問題もあると思います。武部農林水産大臣が9月23日に会津若松市で記者会見し「ウシが原料の肉骨粉をブタやニワトリの飼料として使用するのを禁止した場合、様々な影響が出ると予想される」と発言したのは、このような疫病の怖さへの無知と、農業の保護のためには国民は無視するという発想の最たるものです。

 対策は国家が国民を守らないのであれば、地方自治体が県民を守るということになります。
 9月23日に東京都は独自に「遺伝子組み換え食品」と「クローン牛食品」を表示するシールを発表し、12月1日から使用することにしました。石原東京都知事は「本来は国の問題だが、東京都が率先して取り組んだ。国でも活用してもらいたい」と談話を発表しています。
 しかし、その食品を食べるか食べないかは個人の責任になります。結局は自衛するしかないということになります。そこで出現してきたのが「地産地消」という運動です。地域で生産したものを地域で消費するということです。
 今回の口蹄疫や狂牛病についても、農業を工業のように大量生産、大量流通、大量消費にしたのが原因だという意見があります。工業にするという意味は効率を最高にするということであり、世界でもっとも安く生産できる場所で大量に生産したものを、世界中に流通させるということです。
 これは環境問題の原因でもあるし、日本のように農林水産省の戦後の失政のために食料自給率が40%を切るという安全保障上の大問題にもなります。
 そこで、地域で生産された食品を地域の人たちが消費しようという運動が、最近になり急増してきました。
 三重県では「地産地消ネットワーク三重」という組織で推進していますし、岩手でも「地産地消推進機構」が今年の6月に設立されました。どちらも北川知事や増田知事が先頭に立って進めています。
 身近で生産された食品であれば、その生産過程もわかり安心ということは当然ですが、無駄な流通のために消費されるエネルギーの節約や、廃棄される食品の減少などの効果もあります。しかし、もっとも重要なことは地方分権を加速することだと思います。





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