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論文

 今日は人工知能の最新の状況をご紹介したいと思います。
 スタンリー・キューブリック監督の名作『2001年宇宙の旅』に宇宙船内でコンピュータHALと船長代理のフランク・プールがチェスをする場面があります。
 わずか30秒ほどの場面ですが、キューブリック監督は若い頃にはニューヨークのワシントン広場でチェスの道場荒らしをしていたマニアなので、あの場面は大変に意味深く構成されています。
 対局の内容は勝手に作られたものではなく、1913年にハンブルグで実際に行われた対局を下敷きにしたもので、きちんと定石を踏まえた非常に高度な対局の再現です。そしてHALの指し手は罠をしかけたり、勝てるのに、わざわざ遊びの手を差したりと、人間の名人が素人を翻弄するような内容で、あの赤い目をしたコンピュータが画面になければ人間の名人と区別がつかないものです。

 すでに1950年代から、人間に勝つことのできるチェスのプログラムを作ることは人工知能のひとつの目標で、色々なプログラムが開発されてきましたが、やはり人間は強く、なかなか勝てませんでした。
 ところが1996年2月に歴史的な対局が行われました。世界チャンピオンのガルリ・パスカロフとIBMが開発したスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」がフィラデルフィアで対決し、結果は1勝2敗3引分けでコンピュータが負けたのですが、とにかくコンピュータが一勝しました。
 翌年5月にニューヨークでリターンマッチが行われ、IBMが「ディープ・ブルー」を1秒間に2億手も考えることのできるように性能を向上させ、2勝1敗3引分けでコンピュータが勝ちました。チェスの分野で人工知能が名人並みになった歴史的瞬間でした。

 将棋は捕った相手の駒を自分の駒として使えるということで難しく、囲碁は盤面が19×19と広すぎてまだまだ人間の名人に勝つのは程遠い段階です。私のパソコンに囲碁のプログラムが入れてあり、たまに対局しますが、初段にも程遠い私でもたまには勝ってしまうという程度です。四段程度を目指すという研究もされていますが、まだまだ時間がかかると思います。
 それ以外に人工知能の利用が期待されている分野が翻訳です。京阪奈研究学園都市にATR音声言語通信研究所という研究機関があるのですが、そこでATR−MATRIXというプログラムが開発されていますが、例えばこの程度の翻訳ができます。

    人間:TBSホテルでございます。
    人工知能:This is TBS Hotel.
    人間:今日、泊まる予定の月尾です。
    人工知能:This is Tsukio.I'll stay today.
    人間:確認いたしますのでお待ちください。
    人工知能:I'll check it.Please wait.
    人間:シングル一泊3万円のお部屋ですね?
    人工知能:It'a single room for 30000 yen a night,right?
    人間:変更はございませんか?
    人工知能:Aren't there any change?
    人間:では確認させていただきます。
    人工知能:Then,I'll check it.

という具合で、使用できる単語や限られた話題であれば、TOEICという国際的な英語能力判定テストで、500点台は取れそうだということです。入学試験でTOEICを採用している大学では、550点程度を最低基準としていますから、受験資格は十分にあるというわけです。

 今、ご紹介したのは音声の分野ですが、視覚の分野でも成果がでています。
 人間には簡単でもコンピュータには難しい能力としてパターン認識という分野があります。例えば、遠くからAさんを見かけて、Aさんだと見分ける能力です。
 人工知能にしてみれば、目が二つ、鼻が一つ、口が一つで、他の人間の顔と同じではないかというわけです。
 そこで、Aさんの顔写真をコンピュータに記憶させておいて、カメラで写した顔と比較させるのですが、少し横向きであったり、俯いていたりすると、なかなか判断できないということになります。
 それではということで、今度は立体写真で顔を記憶させておいて、角度が変わっても判別できるということにすると、だんだん識別能力が高まって、最近では97〜98%は判別できるところまで到達しています。
 コンピュータがこういう能力を持てば、玄関のドアの開閉はカギではなく、顔を見て開けてくれることも可能で、最近のピッキング犯罪対策になるかも知れません。

 しかし『2001年宇宙の旅』でもコンピュータのHALが人間に反抗するようになり、最後は人間を船外へ追い出す場面がありますが、問題はないのかと心配になります。
 ディープ・ブルーのように1秒間に2億回も指し手を計算できるという人間には及びもつかない能力を持ち始めていますから、自分で判断する能力を授けると暴走する可能性がなくはありません。多くの皆さんが自分の子供の教育で苦労しておられるのと同じことが起こるかも知れません。





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