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論文

 一昨日9月11日に大事件が発生しました。とりわけ全世界に生中継で放送された「ワールドトレードセンター・ビル」消滅の光景が劇的だったと思います。トム・クランシーがライアン・シリーズの新作として発表した『合衆国崩壊』(Executive Orders 1997)で、日本のジャンボジェット機が首都ワシントンの合衆国議会議事堂に突っ込むという場面を描いていますが、まさにそのとおりのことが発生したという印象でした。
 それ以外にも、このような事態が発生するということを予言している本もあります。アメリカの日本研究者として名高いチャルマーズ・ジョンソン博士が昨年発表した『ブロウバック』、日本語では『アメリカ帝国への報復』という題名で、現在のアメリカの外交政策を推し進めると様々な国から報復を受けると予言し、その第9章は「メルトダウン」、最終の第10章は「帝国の末路」という刺激的な表題になっています。
 このような話は政治学者などがされるでしょうから、今日は消滅した「ワールドトレードセンター・ビル」を追悼する話題にしたいと思います。

 「ワールドトレードセンター・ビル」は色々と話題の多い建物で、1966年頃から構想されて、72年にツインタワーが完成したのですが、1931年に完成して高さ381メートルで世界一を誇っていた「エンパイヤーステート・ビル」を41年ぶりに抜いて世界一になりました。高さは417メートル、110階建てです。
 エンパイヤーステート・ビルは完成して2年後に映画『キングコング』(1933)の舞台となっていますが、「ワールドトレードセンター・ビル」も4年後に新作の『キングコング』(1976)の舞台となって、競争していました。
 しかし、2年後には、シカゴにできた「シアーズタワー」(443メートル)に抜かれ、さらに3年前にはマレーシアのクアラルンプールに完成した「ペトロナス・タワー」(452メートル)にも抜かれて第3位でした。ちなみに、現在、台湾に「台北国際金融センタービル」が計画中で、これは508メートルで一気に世界1位を狙っています。

 「ワールドトレードセンター・ビル」は日本に縁があり、設計者は日系二世のミノル・ヤマサキ(1912−86)という建築家で、日本でも神戸にあるアメリカ合衆国領事館の設計をしています。あの建物の鉄骨は日本製で,パナマ運河を通ってニューヨークまで運ばれました。実はヤマサキは爆破に縁のある建築家で、60年代にセントルイスにプルーイット・イゴー住宅団地を設計しているのですが、これも爆破されているのです。ただし、事件ではなく、この団地はスラム地区を再開発して高層住宅団地にしたのですが、高層建物の陰で犯罪が頻発して、入居率が30%を切ってしまい、ついに壊されることになったのですが、爆薬を仕掛けて爆破するという方法で取り壊しました。

 テレビジョンの中継を見ていると、あの巨大な建物が一瞬にして消滅してしまうように崩壊しましたが、なぜかと感じられた方も多いと思います。
 マンハッタンにあるセントラルパークに行くと、よく分かりますが、マンハッタンは巨大な岩盤の上に構築された都市なので、日本のように地震の心配がなく、日本の建物と比較すると華奢にできていますから、予想もしなかった側面からの衝撃にはまったく弱いのですが、最大の秘密は、あの建物は柱がないことです。
 あの建物は63メートル×63メートルの正方形の平面形状をしていますが、中央にエレベベータや階段の入っているコアがあるだけで、それ以外は建物の外壁部分に細い柱が各側面に約20本、合計80本が立てられているだけで、ベアリングウォール構造と言われ、オフィス空間には1本も柱がない構造です。
 飛行機が突入したときの場面を見ると、羊羹を切るように建物を切り裂いていますが、外壁は細い柱とアルミニウムのカーテンウォールだけですから、あのようにスパッと切れてしまったわけです。そして、切り取られた上部の重みでつぶれるように崩壊したのです。

 個人的には。あの建物には何度も行き、展望台にも上り、107階にある「トップ・オン・ザ・ウィンドウズ」というレストランにも行きましたし、足元にある「ビスタホテル」にも泊まったことがあるので、一瞬にして消滅してしまったのは寂しいかぎりです。

 あの建物の所有者は民間の不動産業者ではなく、ポート・オーソリティ・オブ・ニューヨーク・アンド・ニュージャージーという組織です。日本では東京都港湾局というような感じですが、権限は絶大で、港湾はもちろんですが、ニューヨーク州とニュージャージー州にある三つの空港、バスターミナル、マンハッタンにかかる橋をすべて管理している団体です。しかし、ワールドトレードセンター・ビルは1993年の爆破事件などもあり、一時は空き室率20%にもなり、現在、99年間のリースで賃し出されることになっています。今度の事件が、財政にどのように影響するかわかりませんが、ぜひ、マンハッタンのシンボルとして再生してほしいと思います。





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